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トランスジェンダーに悩む子供を描いたドキュメンタリー『リトル・ガール』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:210/267
   ストーリー:★★★☆☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【要素】

ドキュメンタリー
トランスジェンダー

【元になった出来事や原作・過去作など】

なし

【あらすじ】

フランス北部、エーヌ県に住む少女・サシャ。出生時、彼女に割り当てられた性別は“男性”だったが、2歳を過ぎた頃から自分は女の子であると訴えてきた。しかし、学校へスカートを穿いて通うことは認められず、バレエ教室では男の子の衣装を着せられる。男子からは「女っぽい」と言われ、女子からは「男のくせに」と疎外され、社会はサシャを他の子どもと同じように扱わない……。

トランスジェンダーのアイデンティティは、肉体が成長する思春期ではなく、幼少期で自覚されることについて取材を始めた監督は、サシャの母親カリーヌに出会った。長年、彼女は自分たちを救ってくれる人を探し続けて疲弊していたが、ある小児精神科医との出会いによって、それまでの不安や罪悪感から解き放たれる。そして、他の同じ年代の子どもと同様に、サシャが送るべき幸せな子供時代を過ごせるよう、彼女の個性を受け入れさせるために学校や周囲へ働きかける。

まだ幼く自分の身を守る術を持たないサシャに対するカリーヌと家族の献身、言葉少なに訴えるサシャ本人の真っ直ぐな瞳と強い意志が、観る者の心を震わせる。

【感想】

出生時の性と自認している性の違和に悩む子供と、その家族にフォーカスしたドキュメンタリーです。題材として珍しいものではないですが、まだ自分のことをうまく伝えられない年齢の子供と、自分を責めてしまう母親が印象に残りました。

<周囲の理解が足りない苦しみ>

僕の中では、海外の方がトランスジェンダーについての理解や支援が進んでいるイメージではありましたけど、この映画を観る限り、必ずしもそうではないのかなと思いました。サシャの通う学校は、「医師の診断があれば対応を考えます」と腰が重い感じでしたし、彼女が通っているバレエスクールでは、男の子の衣装を着せられるし、ロシア人の先生に変わった途端、「ロシアではこんな問題は起こらない」と、先生が彼女を追い出してしまうほどです。まわりに何の迷惑もかけていないのに、随分ひどい扱いですよね。。。

<自らを責めてしまう母親>

そういうことが起こるたびに、母のカリーヌは自分がいけなかったのではないかと自責の念に駆られます。カリーヌは妊娠中に女の子を欲しがっていたそうですが、実際に生まれてきたのが男の子で、少しがっかりした過去がありました。それがいけなかったのではないかと。ただ、医師も言っていますが、母親がそういう考えだったからといって、トランスジェンダーへの影響は皆無です。そこはまったく関係ありません。とはいえ、トランスジェンダーになる原因はまだよくわかっていないようですけど。

<口には出さないものの、思うことがたくさんあるであろうサシャ>

サシャはとても素直で健気でかわいい子でした。どこからどう見ても、女の子にしか見えないぐらい。そんな彼女は、あまり自分のことを積極的に語りはしません。もしかしたら、お母さんに迷惑をかけたくないと子供心ながらに思っていたのかもしれませんね。子供ってけっこう空気読んだりする子もいますから。ただ、医師との対話の中で時折流す涙を見て、口には出さないけれど、心の中で思い悩むことが溢れるほどあるんだろうなと思うと心が痛みます。

<周囲の理解の大切さ>

こういう問題、、、と言うと何か悪いことのように聞こえてしまうのでよくないですね。こういう状況は、やはりまわりの理解が必要だと感じました。人間も動物である以上、「異質なモノへの排除」というのは必ず起こってしまいます。それ自体は自己防衛本能からくるものなので否定はできませんが、それによって本来送るべき幸せな子供時代が奪われてしまうのだとしたら、それはとても悲しいことです。

そうならないように導くのが大人の役目。幸い、親身になってくれる小児精神科医と出会うことで、周囲への働きかけも捗り、サシャは転校することなく、女の子の格好をして学校に通うことが許可されます。彼女を受け入れてくれる友達もでき、ひとまずは一件落着ですね。

ただ、これはまだ始まりに過ぎないのではとも思います、これからいじめに遭う可能性もありますし、思春期に入ったら、より自分のアイデンティティについて思い悩むことも増えるかもしれません。ホルモン投与によって男性らしさを抑制することもできるようですが、サシャが家庭や子供を持ちたいと思ったときにどうするのかも、いずれは考えなくてはいけないことです。

昔よりはそういったマイノリティの人たちにも日の目が当たり、周囲の人々の理解や認知も徐々にですが広まっていってはいるのではと感じます。映画やドラマでもそういった設定のキャラクターも増えました。けれど、同じ悩みで苦しんでいる人もまだ大勢いるだろうから、当事者や彼らを取り巻く人々が何を感じているのか、このドキュメンタリーを観ると、少しはわかるかもしれません。

<その他>

今年の9月に公開した『トムボーイ』は、男の子になりたい女の子を描いた作品なので、そちらも併せて観るのもいいかもしれません。


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