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【ネタバレあり】ラストまで観てやっと邦題の意味がわかり、そしてこの邦題が的を得ていると感じた『わたしは最悪。』
【個人的な満足度】
2022年日本公開映画で面白かった順位:101/130
ストーリー:★★★☆☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★☆☆☆
【作品情報】
原題:The Worst Person in the World
製作年:2021年
製作国:ノルウェー・フランス・スウェーデン・デンマーク合作
配給:ギャガ
上映時間:128分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
元ネタなど:なし
【あらすじ】
学生時代は成績優秀で、アート系の才能や文才もあるのに、「これしかない!」という決定的な道が見つからず、いまだ人生の脇役のような気分のユリヤ(レテーナ・レインスヴェ)。そんな彼女にグラフィックノベル作家として成功した年上の恋人アクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)は、妻や母といったポジションを勧めてくる。
ある夜、招待されていないパーティに紛れ込んだユリヤは、若くて魅力的なアイヴィン(ハーバート・ノードラム)に出会う。新たな恋の勢いに乗って、ユリヤは今度こそ自分の人生の主役の座をつかもうとするのだが──。
【感想】
本日1本目に観た『リコリス・ピザ』に続き、こちらも「何かないかなあ」と自分を模索している女性の話でした。ただ、こちらの方がシリアスです。
<誰もが思う"何者かになりたい"という願望>
ユリヤの悩みは、人によって贅沢に映ると思います。彼女、才色兼備ですから。成績優秀者が行くにふさわしいという理由だけで医大へ。アートも文章も才能アリ。かわいいから彼氏にも特に困っていない様子です(作るまでは)。でも、どれにもピンと来ていないんですよね。「不満はないけれど、自分にはもっとバチハマリするものがあるはず」と、不確かな理想を追い求めている印象を受けます。気持ちはわかりますよ。バチっとハマる何者かになりたい想いは誰にでもあるはずですから。
<恋人との方向性の違いからひずみが生じる>
そして、ここでも『リコリス・ピザ』同様、歳の差カップルが生まれます。30歳間近のユリヤと、44歳のコミック作家アクセル。年齢的にアクセルは子供を欲しがっていますが、ユリヤにその気はありません。
そんな方向性の違いがある中で、ユリヤはふらっと立ち寄ったパーティーでアイヴァンと出会います。ユリヤと同じように子供を望まない彼。話も合うし、ちょっといいかもなんて思ったのも束の間、残念ながらお互いに恋人がいるというタイミングの悪さ。何もなくその日は別れます。
しかし、アクセルに対する違和感と、アイヴァンへの期待が頂点に達し、ユリヤはついにアイヴァンの元へ。実に素直な女性ですよ。まあ、自分勝手といえばそれまでですし、アクセルからすれば不幸としか言いようがないけれど、ユリヤは心のままに生きているように見えます。自分のポジションにモヤモヤしながらも、自分のしたいようにする自由人ですよ。
<最悪が指すもの>
一見、そこまで不自由がないように見えるユリアですが、彼女の何が最悪なんでしょうか。僕が思うに、彼女に降りかかる様々なことをまるっと「最悪」と、彼女自身が感じているんじゃないかなと思いました。最悪っていうと言葉が強いですが、普段の会話にもある「うーわ、サイアクー」っていうポップなのもここには含まれているのではないかと。
バチっとハマった何者かになれない私、最悪。
アクセルと子供を巡って意見が合わない、最悪。
アイヴァンと出会ったけどお互い恋人がいる、最悪。
父親との関係がうまくいかない、最悪。
そして、一番の最悪が物語のラストに来ます。ここはネタバレなので、映画を観る予定の人は、ここでページをそっ閉じしてください。
アイヴァンと付き合ったユリヤですが、やがて彼女は妊娠します。子供を望まなかった彼女が、子供を宿してしまうんですね。いや、望まないならちゃんと避妊しろよとは思うんですが。さて、この子供をどうしようかとユリヤは思い悩みます。自分だって望んでいなかったし、アイヴァンも望んでいません。その結果が、まさに一番の最悪といえるんじゃないでしょうか。
ラストでは、ユリヤがシャワーを浴びているシーンで、足のみが映っています。突然、足を伝って血が流れてきます。ハッとするユリヤ。次のシーンでは別の場所でスッキリした表情。これだけではちょっとわかりづらい部分もあるんですが、彼女は流産してしまったんですよね(自然か意図的かはわかりませんが)。そして、病院で一通り処置を受けて落ち着いたと。
いろいろ思い悩んでいたユリアというひとりの女性の話でしたが、結局は子供をどうするかというところがクライマックス。女性である以上、切っても切れない話ですよね。ユリヤは流産して悲しむかと思いきや、逆に少し肩の荷が降りたようにも見えます。でも、ここにも「子供を流産してホッとしている自分、最悪」という意味があるんじゃないかなと思ったんですよ。これまでの最悪って、自分じゃどうにもならないことに対する最悪って感じでしたが、この流産でホッとしてしまうことについては、自分の主体的な感情ですからね、今までで一番強い最悪とユリヤ本人も捉えているんじゃないですかね。ある意味自虐的とも言えますが。
<一番推したいキャラクターはアクセル>
ちなみに、僕はアクセルの器の広さにとても感動しました。実は、アクセルはすい臓がんを患い、余命幾ばくもない状況なんですが、ユリヤがお見舞いにきたときに、いろいろ過去を振り返るんです。そこで、彼はずっとユリヤのことを「いい母親になる」と信じていたんですよ。ただ、彼女はそんな自分をまったく想像できていませんでした。アクセルがユリヤと別れて唯一後悔したのが、彼女にその自信を持たせてあげられなかったことだと言うんです。自分の死が近づいているにも関わらず、ユリヤのことに関する責任が自分にあると彼は感じているんです。なんて健気なんでしょうか。
<そんなわけで>
これは男性よりも女性の方がいろいろ思うところがありそうな映画ですね。僕自身はあまり自分事のようには感じられませんでしたが、妊娠や出産を視野に入れつつ、自分の人生をどうしていくかっていうひとりの女性の生き方を描いているので、女性の方にぜひ観ていただきたいです。ちなみに、全然関係ないんですが、アイヴァン役のハーバート・ノードラムの声が、すごくアダム・ドライバーに似ています(笑)
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