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子を愛してほしい。。。死こそ救済と思えるぐらいの生き地獄の中、とにかく母親の胸糞悪さが群を抜いていた『あんのこと』

【個人的な満足度】

2024年日本公開映画で面白かった順位:21/70
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:-
  製作年:2024年
  製作国:日本
   配給:キノフィルムズ
 上映時間:113分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:2020年に日本で起きた実際の事件がベース
公式サイト:https://annokoto.jp/

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
21歳の主人公・杏(河合優実)は、幼い頃から母親に暴力を振るわれ、十代半ばから売春を強いられて、過酷な人生を送ってきた。

ある日、覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅(佐藤二朗)という変わった刑事と出会う。大人を信用したことのない杏だが、なんの見返りも求めず就職を支援し、ありのままを受け入れてくれる多々羅に、次第に心を開いていく。

週刊誌記者の桐野(稲垣吾郎)は、「多々羅が薬物更生者の自助グループを私物化し、参加者の女性に関係を強いている」というリークを得て、慎重に取材を進めていた。ちょうどその頃、新型コロナウイルスが出現。杏がやっと手にした居場所や人とのつながりは、あっという間に失われてしまう。行く手を閉ざされ、孤立して苦しむ杏。

そんなある朝、身を寄せていたシェルターの隣人から思いがけない頼みごとをされる──。

【感想】

※以下、敬称略。
家なき子』(1994)のすずちゃん以上に壮絶な人生を歩む少女の話。これが実話ベースというのだから、世の不条理さに胸が痛くなりますね。。。

<母親の突出した胸糞悪さ>

この映画は本当に登場人物の胸糞悪さに辟易するんですが、中でも一番キツいのは、あんの母親を演じた河井青葉です。自分が世代だったので引き合いに出してしまいますが、「同情するなら金をくれ!」で有名なあの『家なき子』で主人公すず(安達祐実)の父親役を演じていた内藤剛志も当時から相当ひどいと感じてしましたけど、今回の河井青葉はその存在を超えるクソっぷりでしたね。あのドラマは小学生の女の子が貧困とDVに苦しむ姿が痛ましかったですが、この映画ではそれに加えて、あんがリスカ、売春、シャブ中にまで染まっている分、さらに状況はよくないです。本来であれば母親こそが正しい方へ導くべき存在なのですが、その母親が娘に金を作らせるために「体売ってこい!」と言う始末ですよ。で、稼いだ金はすべて母親に吸い取られると。反抗しようものなら殴る蹴るの暴行が始まりますし、安住の場所である我が家があんにとってはもはや地獄の巣窟でした。ここでの河井青葉の演技は鬼気迫るものがあって、胸糞悪いと同時にそう感じさせるほどの演技力が圧巻だったと思います。ちなみに、同居している祖母は唯一の味方らしく、かつてはあんを母親から守ってくれたようですが、今では体が不自由のため見ているだけしかできないようでしたね。

<どこへ行っても何をしても幸せになれない悲しさ>

そんなときにあんが知り合ったのは多々羅という刑事です。劇中では刑事らしい仕事をほぼしていないので、「本当に刑事なのか?」って思うんですけど、クスリから足を洗いたい人の集団セラピーを主催しており、あんのことも何かと気にかけてくれるザ・昭和のおっさんでした。なぜそこまであんを気にかけてくれるのかはわかりませんが、実は、多々羅がそのセラピーに参加している女性に手を出したとかで記事にされて捕まってしまうんですよ。別にあんに何かしようという素振りはまったくなかったんですけど、いずれそうしようと思っていたのでしょうか。特に根拠はないんですけど、僕が思うに、多々羅はあんに対してはそういう気持ちはなく、本当に更生させようとしていたように見えましたけどね。とはいえ、捕まったことでセラピーも解散し、しかもコロナの直撃もあって、あんは再び頼れる人がいなくなってしまいます。それが悲劇の始まりだったかもしれないんですよね。。。

あんは母親から逃げるためにDVやストーカーに苦しむ女性だけが住めるマンションに入居するんですけど、ある日、隣人から無理矢理子供を託されてしまいます。「男に見つかったから子供をよろしく!1週間ぐらいで戻って来るから!」って。あっけにとられつつも、子供と同じ時間を過ごすうちに母性が芽生えたのか、徐々に表情が和らぐあん。しかし、外を歩いているときにたまたまあんの母親に見つかり、子供を取り上げられ、後日、児童相談所に引き渡してしまいます。これがトドメでした。これまであんが積み上げてきたものが一気に崩れてしまい、取り返しのつかないことになります。辛く厳しい現実の中で、例えひとときでも、何の穢れもない子供と触れ合えたことが、もしかしたらあんにとっての安息だったのかもしれませんね。

<あんの悲劇は防げたのか>

全編通じて救われることのないあんでしたが、それを防ぐことはできなかったのでしょうか。もし、多々羅の件が公にならなければ、彼が捕まることもなく、あんを見守り続けることができたかもしれません。その点において、記者の桐野は後悔の念に駆られていましたが、彼のしたことは正しいですし、あのまま多々羅を野放しにしても新たな被害者が出るだけなので、僕は桐野が責任を感じることはないと思います。そこは警察という立場を利用して弱き者につけ入る多々羅が全面的に悪いですよ。いつも茶目っ気たっぷりな役どころの印象が強い佐藤二朗ですが、こうやって『はるヲうるひと』(2021)や『さがす』(2022)でも見せたようなシリアスな役どころもいけちゃうのは、さすが役者だと思いますね。

で、あんのことで言えば、やっぱりすべては母親の責任なんじゃないかと思うわけです。母親がもっと娘を愛し、正しい方向へ導いていればこんなことにはならなかったのではないでしょうか。あんも学校に行けて、友達もできて、何か打ち込めることを見つけて、道を踏み外さなかったかもしれません。

母親の愛と言えば、個人的には子供を無理矢理預けた三隅(早見あかり)も相当に胸糞悪かったです。いきなりあんに預けたものの、最終的には子供を児童相談所から何とか引き取り、「あんは恩人です」だなんて、、、どの口が言うんだよって。本当にこの映画に出てくる親はどいつもこいつも。。。

<そんなわけで>

世界的に見れば日本は平和かもしれませんが、知られざるところに目を覆いたくなるような闇が存在しているということを痛感する映画でした。そして、子がいる親はもっと子を愛してほしいと思いました。

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