選挙に行かないことが国を腐らせる絶望を味わえるルーマニアの例『コレクティブ 国家の嘘』
【個人的な評価】
2021年日本公開映画で面白かった順位:21/214
ストーリー:★★★★★★★★★★
キャラクター:★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★★
【以下の要素が気になれば観てもいいかも】
ドキュメンタリー
ルーマニア
国家の腐敗
汚職
【あらすじ】
2015年10月、ルーマニア・ブカレストのクラブ“コレクティブ”でライブ中に火災が発生。27名の死者と180名の負傷者を出す大惨事となったが、一命を取り留めたはずの入院患者が複数の病院で次々に死亡。最終的には死者数が64名まで膨れ上がってしまう。
カメラは、事件を不審に思い、調査を始めたスポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」の編集長を追い始める。彼は内部告発者からの情報提供により、衝撃の事実に行き着くことになる。その事件の背景には、莫大な利益を手にする製薬会社と、彼らと黒いつながりを持った病院経営者、そして政府関係者との巨大な癒着が隠されていた。
真実に近づくたび、増していく命の危険。それでも記者たちは真相を暴こうと進み続ける。
一方、報道を目にした市民たちの怒りは頂点に達し、内閣はついに辞職へと追いやられ、正義感あふれる保健省大臣が誕生する。彼は、腐敗にまみれたシステムを変えようと奮闘するが…。
【感想】
とてつもなく衝撃的なドキュメンタリーだった。これはみんなに観て欲しい映画です。そして、ちゃんと選挙に行って欲しいです。
<ルーマニアの現実>
この火災について日本で知っている人はどれぐらいいるでしょうか。僕は知りませんでした。劇中では当日のライブ映像も流れていましたが、演出に使われた花火が原因で、突然火の手が上がり、瞬く間に会場を覆ったのです。本当にものすごい早さで火の手がまわり、逃げ惑う人々の姿が映し出されていました。
<病院の実態>
多くの人が病院に運ばれたものの、助かった人まで後から死亡するケースが多発。なのに、病院側は「万全の医療を提供した」と強く主張する一方です。適切な処置を行ったのに、なぜ、後から命を落とす人がいたのでしょうか。
実は、亡くなった人たちは火傷が原因ではなく、その後に引き起こされる感染症が問題でした。本来であれば、きちんと消毒すれば問題ないのですが、、、病院で使われている消毒液が10倍以上に薄められていたんです。もはや殺菌効果なんてないですよ。その結果、感染症が広がり、火傷自体大したことがなかった人まで命が失われてしまったのです。
<ある製薬会社の悪行>
この消毒液を作ったのはヘクシーファーマという製薬会社です。さらに、この消毒液の原料を仕入れた会社は別にあります。そこは相場の値段で仕入れるんですよ。それをヘクシーファーマに7倍の値段で売るんです。そして彼らが10倍に薄めるっていう。しかも、その仕入れた会社とヘクシーファーマの社長がダン・コンドリアで同じ人なんですよね。どんなカラクリだよって。そうやって稼いだ金は全部政治家への賄賂とかに使われていました。
<真実を追いかけるジャーナリズム>
その事実を内部告発してくれた人たちがいました。それをきっかけに取材を続け、ついに世間の目にさらされることになりました。そうしてデモが起こり、ついに保健相のトップが交代することに。メディアとはこうあるべきだと思うと同時に、それが政府側を動かしたのは非常に喜ばしいと思いました。
ちなみに、その後ダン・コンドリアは交通事故で突然亡くなるんですよ。自殺なのかどうかさえわかりません。映画では深く掘り下げていませんでした。
<新たな保健相のトップ>
ここからがこの映画の後半戦です。新しく保健相のトップとなったヴラド・ヴォイクレスクがメインの話となります。彼は腐敗した保健相の改革を推し進めた。調べれば調べるほど出てくる数々の悪行。病院とも癒着しまくりです。病院の経営者もその経営手腕とかではなく、政治的忖度で選出されていました。だから、先の薄められた消毒液もずっと前から使っているんですが、みんなそれを隠してて。
「この国は腐ってる」
保健相のトップがそう口にしちゃうぐらいひどい状況でした。でも、この方は本当に勇敢で。既得権益を持つ者からの妨害が来ることも承知の上で、どんどんメスを入れていったんですよ。仕組みから全部キレイにしてやろうって。そして、彼は選挙に出ました。次のルーマニアの首相となるべく。彼がトップになれば、国の膿は出され、少しずつでも改善されると誰もが思っていました。
<ルーマニアの投票率の低さ>
しかし、結果は完敗。あれだけの報道がありながらも、若者が全然投票に行かなかったそうなんですよね。10代の有権者で投票率5%、20代でも10%とかだったかな(数字はうろ覚え。。。)。なので、これまで腐敗国家を作り上げていた社会民主党がまたトップになってしまったんです。
ルーマニアって1960年代から80年代にかけて、チャウシェスクがずっと長期政権を握っていたようだから、「どうせ投票しても何も変わらんだろ」っていう風潮がまだ残っているんでしょうかね。。。
なんにせよ、ルーマニアは変わるチャンスを失いました。これがフィクションの映画だと、ラストは新しい首相が誕生してハッピーエンドとなるところですが、現実はそう簡単には行きません。バッドエンドです。その後のルーマニアの国内事情は知りませんが、パンフレットを読む限り、昔のままで大して変わっていないようです。。。
<その他>
この映画を観て思うのは、ここまで国家の闇を暴いたジャーナリズムの底力のすごさと、あとは選挙には行くべきということ。友人の受け売りですが、投票しないと何かあったとき文句すら言う権利がありませんからね。自分たちの未来は自分たちの手でよいものにしていきたいです。とにかく、選挙に行く前にこの映画は観て欲しいですね。投票に行かないと、いずれ日本もこうなってしまうかもしれないという危機感を覚えるかもしれません。
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