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多くを語らず余韻を楽しむ映画ではあるけど、設定にはかなり疑問が残る『PLAN 75』

【個人的な評価】

2022年日本公開映画で面白かった順位:74/85
   ストーリー:★★★☆☆
  キャラクター:★★★☆☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★☆☆☆

【ジャンル】

ヒューマンドラマ

【元になった出来事や原作・過去作など】

なし
 
【あらすじ】

夫と死別してひとりで慎ましく暮らす、角谷ミチ(倍賞千恵子)は78歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される。住む場所をも失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。<プラン75>とは、75歳になったら自ら死を選択できる制度だ。

一方、市役所の<プラン75>の申請窓口で働くヒロム(磯村勇斗)、死を選んだお年寄りに“その日”が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの瑶子(河合優実)は、このシステムの存在に強い疑問を抱いていく。また、フィリピンから単身来日した介護職のマリア(ステファニー・アリアン)は幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の<プラン75>関連施設に転職。利用者の遺品処理など、複雑な思いを抱えて作業に勤しむ日々を送る。

果たして、<プラン75>に翻弄される人々が最後に見出した答えとは―――。

【感想】

設定はとても興味深い内容でした。少子高齢化が進む日本。それに歯止めをかけるため、75歳になったら自分で死を選択できる"プラン75"が国会で可決されたっていう設定ですね。ただ、その制度自体にかなり疑問が残り、イマイチ物語に入り込めませんでした。。。

<死の選択を果たしてどれぐらいの人がするのだろうか>

まず、自分で死を選べるようになったという世界ですが、これはけっこうシビアだなと感じました。結局、国が高齢者に限りそれを認めたっていうことは、ある程度は社会全体で考えたときに高齢者の価値を低く見積もっていると思うんですよ。高齢により働けなくなった(=経済活動が行えなくなった)人で、身寄りがない人に、合法的な安楽死を国が支援しますよというんですから。金を稼ぐスキルがなく、生活に困り、家族もいないんじゃ、生きてる意味ないですよねって国が言ってるようなものじゃないですか。もちろん、老人より若い人の方が、国力を高める上では価値は高いとは思います。体力もあるし、判断力もあるし、何よりまだまだ生きられますからね。

でも、このプラン75が、希望者のみっていうのが難しいところなんですよ。いくら安楽死を自ら選べるようになったとはいえ、死ぬにはそれなりの勇気もいるでしょう。だから、もともと自殺願望のある人しか使わないんじゃないの?って。しかも、プラン75を選択すると、その支援金として10万円もらえるんですが、気が変わったらいつでも安楽死を取りやめることができます。これじゃあ10万円もらうだけもらう人が多そうだなって(笑)だから、映画で語られている制度だけじゃ、高齢者の人口増加を抑えるには足りないんじゃないかっていう気がしてしまいました。そもそも高齢者を減らしたところで、若い世代の負担は減るかもしれませんが、子供を増やす政策も同時に行わないと単純に人口が減るだけじゃ……。それに今の老人って元気ですからね、下手したらまだまだ使える労働力をみすみす失うことにもなりかねないのでは、、、なんて考えたりしました。いや、そんな細かいツッコミはいいですよね。あくまでも映画なんですから。でもまあ、そういう点が気になっちゃうぐらいには、あまり話に入り込めなかったっていうのも事実なんですが。

<多くを語らない作風>

この映画、大事なこと全然話さないんですよ、登場人物が。自分でああしたい、こうしたいって主張もあまりなく、言葉の真意もはっきり伝えません。なので、観ている人が与えられた情報を元に各キャラクターの心情を推測するしかないんですよね。

働き口もなく、身寄りもないミチは、自分に生きる価値がないと思ってプラン75を選択したと思うんですが、ラストでの彼女の行動はそんな運命に抗いたいと思ったのかなあとか。

ヒロムもラストでまさかの行動に出るんですけど、あれもプラン75を選択した彼の叔父に対して、そんな社会システムのルーティンに乗っかるよりは、せめて身内である自分の手でカタをつけたいと思ったゆえの行動なのかなあとか。

あえて映画の中で結論を出さず、人によって解釈が様々に生まれるのは、この映画の面白いところかもしれませんね。

<そんなわけで>

プラン75の設定に疑問が多々残りつつ、しかも登場人物の心情など観客に判断を委ねる形になっているので、けっこうもやっとする人はいるかもしれません。設定が興味深い内容だっただけに、個人的には惜しいなっていう気持ちでした。どうせ高齢化を止めるなら、老人同士で殺し合いをさせる『バトル・ロワイアル』(2000)みたいな話の方が個人的には好きですね(笑)


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