作家志望の若者が夢へと一歩踏み出す、自身のキャリアを考える映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』
【個人的な評価】
2022年日本公開映画で面白かった順位:40/67
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★☆☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆
【ジャンル】
ヒューマンドラマ
【元になった出来事や原作・過去作など】
・自叙伝
ジョアンナ・ラコフ『サリンジャーと過ごした日々』(2014)
【あらすじ】
90年代、ニューヨーク。作家を夢見るジョアンナ(マーガレット・クアリー)は、老舗出版エージェンシーでJ.D.サリンジャー担当の女上司マーガレット(シガニー・ウィーバー)の編集アシスタントとして働き始める。
昼はニューヨークの中心地マンハッタンの豪華なオフィスに通い、夜はブルックリンにある流し台のないアパートで、同じく作家志望の彼氏と暮らしている。
日々の仕事は、世界中から毎日大量に届くサリンジャーへの熱烈なファンレターを処理すること。小説の主人公に自分を重ねる10代の若者、戦争体験をサリンジャーに打ち明ける退役軍人、作家志望の娘を亡くした母親――。心揺さぶられる手紙を読むにつれ、飾り気のない定型文を送り返すことに気が進まなくなり、ふとした思いつきでジョアンナは個人的に手紙を返し始める。
そんなある日、ジョアンナが電話を受けた相手はあのサリンジャーで…。
【感想】
ひとりの女性が自身のキャリアについて考える映画です。王道なストーリーだけにわかりやすさはあるけど、ちょっと地味な印象でした。
<彷彿とさせるあの有名映画>
この映画が地味と感じてしまうのには訳があります。それは、ある映画の存在ゆえなんですけど。そう、『プラダを着た悪魔』(2006)です。本作は「文芸版『プラダを着た悪魔』」っていうキャッチフレーズを目にして興味を持ったんですが、、、まあそれは当たらずも遠からずといった感じでしたね(笑)確かに要素としては似ているんですよ。主人公は若い女性。なんとか入社した出版エージェンシー。そこにいるおっかない上司。仕事はファンレターの処理というルーティン。
でも、『プラダを着た悪魔』はファッション編集部を舞台にしているため、煌びやかな映像が多く、視覚的に訴えてくる部分が強かったから印象に残るんですよ。一方、今回の映画は文芸の話なので映像的に目立つ要素はありません。それに加えてストーリーのオーソドックスさと、思ったより強烈ではなかったキャラクターといったことも相まって、やや地味と感じてしまいました。
<作家になりたい人へのメッセージ>
ただ、作家になりたい人には重要なメッセージが2つあります。ひとつは、とにかく書くことが好きなこと。会社で白い目で見られても(なぜか作家志望の人は好まれない)、両親に反対されてもおかまいなし、パーティーに誘われても平気で断れるぐらい好きであること。これは作中に出てきたある女性作家からの言葉です。
もうひとつは、毎日書くこと。1日15分でもいいから書きなさいと。これはサリンジャー本人からの言葉ですね。まあ、作家に限らず何かを作りたい人にとっては当たり前のことかもしれませんが、なかなかこの当たり前のことが難しかったりします(笑)
そんな言葉に押されて、ジョアンナも作家としてがんばっていこうと決意するんですが、その姿は夢を叶えたい人には刺さるかもしれません。やりたいことがあってもなかなか一歩を踏み出せない人が多い中で、彼女は自分の信念を貫くことにしたので、とても前向きな気持ちになれます。
<作る側か観る側か>
この映画を観ると、自分が作る側にまわりたいのかどうかっていうのを判断する指標にもなるかもしれません。漫画やアニメ、ゲーム、映画が好きだと、一度は作ってみたいという願望が生まれるのは自然なことだと思います。でも、観るのと自分で作るのとではまた違います。それはどっちが偉いとかではなく、単純に嗜好の違いだと思うんですよ。料理好きな人が全員シェフになるわけではなく、単に食べることが好きな人もいますから。若い頃には脚本家の学校に通った僕も、作ることは観ることほど好きではなかったなあなんて改めて思ったりしました。まあ、スキルや能力の問題もありますけどね(笑)
<日本には浸透していない出版エージェンシー>
唯一わかりづらかった設定が、ジョアンナの勤め先です。出版エージェンシーであって出版社じゃないんですよ。サリンジャーの新刊が出るってんで、ジョアンナが他の出版社の人に話を持っていくシーンがあるんですが、「なんで競合他社に持っていくんだろう」って途中まで謎でした。彼女はエージェントなので、著者の代わりに出版社と交渉するのが仕事なんですよね。日本には出版エージェンシーって浸透してないので、ちょっとイメージしづらいです。
<そんなわけで>
『プラダを着た悪魔』のイメージが先行すると、ちょっと期待外れになってしまうかもしれません。あくまでも、若い人が自分のやりたいことに向かって前進するキャリア物語として捉えた方がいいです。また、『ライ麦畑でつかまえて』(1951)からの引用が多いので、それを読んだことがあると、もっと映画を楽しむことができると思います。
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