"母"感はあまりなく、むしろ所帯持ちのサラリーマンの悲哀に共感しやすかった『こんにちは、母さん』
【個人的な満足度】
2023年日本公開映画で面白かった順位:86/132
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★☆
【作品情報】
原題:-
製作年:2023年
製作国:日本
配給:松竹
上映時間:110分
ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:戯曲『こんにちは、母さん』(2001)
【あらすじ】
大会社の人事部長として日々神経をすり減らし、家では妻との離婚問題、大学生になった娘・舞(永野芽郁)との関係に頭を悩ませる神崎昭夫(大泉洋)は、久しぶりに母・福江(吉永小百合)が暮らす東京下町の実家を訪れる。
しかし、迎えてくれた母の様子がどうもおかしい...。割烹着を着ていたはずの母が、艶やかなファッションに身を包み、イキイキと生活している。おまけに恋愛までしているようだ!
久々の実家にも自分の居場所がなく、戸惑う昭夫だったが、お節介がすぎるほどに温かい下町の住民や、これまでとは違う“母”と新たに出会い、次第に見失っていたことに気づかされてゆく。
【感想】
※以下、敬称略。
山田洋次監督が手がける『母』3部作の最終章。思うところはあれど、過去の2作品と比べると面白いなと個人的には思いました。
<実は"母"感が弱いシリーズ>
まず、過去作について軽く触れてみましょう。2007年の『母べえ』、2015年の『母と暮せば』からの本作となります。いずれも舞台が全然違うので、話のつながりはまったくないのですが、吉永小百合が"母"を演じているというのだけは共通しています。がしかし、タイトルに"母"がついている割には、このシリーズは"母"感が弱いんですよ(笑)というのも、『母べえ』では長女役が公開当時14歳の志田未来で、年齢的に吉永小百合は母親というより祖母のように感じられちゃったんですよねー。次の『母と暮せば』も、次男役を演じたのは公開当時32歳の二宮和也で、これもまた"母"というよりも祖母感の方が強かった印象です。
本作では息子の昭夫を50歳の大泉洋が演じるということで、ようやく年齢的に"母"と聞いて腑に落ちる設定になりました。ただ、昭夫との関係性だけなら"母"という見え方に問題はないのですが、大学生の孫の舞を永野芽郁演じていたので、これまた祖母感が出てくるっていう(笑)なので、結局このシリーズはどこを取っても"母"とは思いづらいところがあるんですよね。まあ、包容力とかいっしょにいて安心するとかいう概念的な意味合いでは、吉永小百合に対してこれ以上ない母性は感じるんですけど。
で、このシリーズはその"母"が何かをする話かというと、それもまた違うんですよ。"母"の日常と、彼女を取り巻く人々のあれやこれやを描いた家族の物語で、群像劇っぽい印象を受けます。そして、シリーズ共通して、その”母”は"母"であると同時にひとりの女性としての側面も描かれており、必ず色恋が絡んでくるのも特徴的です。過去2作では、吉永小百合は想いを抱かれる立場であったけど、今作では初めて自分から恋をしていたのが新しいなと思いました。そういう点でも"母"って感じは僕はあまりしませんでしたねー。
<昭夫の立場に共感する人は少なくないかも>
そんな中で、僕は今回の作品がシリーズの中で一番面白いなと感じたんですが、その理由は大泉洋演じる昭夫に感情移入しやすかったからです。過去2作は時代設定が戦時中ということもあって、どこか他人事のように感じられてしまいましたが、今回の舞台は現代。そこで昭夫は自身の離婚と、娘の家出と、人事部長としての会社のいざこざと三重苦に陥っており、そのどれもが今の自分にはわかる話でした。いや、別に自分がその渦中にいるわけではないのですが、身近な出来事だなって(笑)ここは共感できるサラリーマンは少なくないかもです。
とはいっても、そこで"母"がなんとかするっていうわけでもなく、彼女は彼女で自分の人生を楽しんでいるので、タイトルに"母"がついている割にはそこまで前面に出てこないのがやっぱりちょっと気になりすね。ラストまで観てようやくタイトルの意味はわかるんですが、家族の群像劇なら別のタイトルでもよかったんじゃないかって気さえします。似たようなタイトルですが、中国映画で『こんにちは、私のお母さん』(2021)っていう作品があるんですけど、こっちの方が断然"母"でしたね(しかもメッチャ泣ける。。。)。
<そんなわけで>
"母"よりも所帯持ちのサラリーマンの悲哀に焦点を当てた映画という印象でした。まあ、自分がそっちの方が共感できるっていうだけなんですけどね。そういう意味では、過去2作よりも個人的に刺さりやすかったかなーと。あとは、舞台は現代ながらも、どこか昭和感漂う雰囲気にノスタルジーを感じられるのもよかったです。ドラマチックな映画というわけではないですが、こういうのは日本で生まれ育った人だからこそ響くものもあると思うので、個人的な好き嫌いは抜きにして、山田洋次監督にはこの手の映画を作り続けてほしいなーって思いました。
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