見出し画像

異常なまでの承認欲求と自己顕示欲。自らの皮膚をグチャグチャにしてまでまわりに注目されたい主人公がとんでもなくクレイジーだった『シック・オブ・マイセルフ』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:124/154
  ストーリー:★★★☆☆
 キャラクター:★★★★☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆

【作品情報】

   原題:Sick of Myself
  製作年:2022年
  製作国:ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・フランス合作
   配給:クロックワークス
 上映時間:97分
 ジャンル:スリラー
元ネタなど:なし

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
シグネ(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)の人生は行き詰まっていた。長年、競争関係にあった恋人のトーマス(エイリック・セザー)がアーティストとして脚光を浴びると、激しい嫉妬心と焦燥感に駆られたシグネは、自身が注目される「自分らしさ」を手に入れるため、ある違法薬物に手を出す。

薬の副作用で入院することとなり、恋人からの関心を勝ち取ったシグネだったが、その欲望はますますエスカレートしていき――。

【感想】

承認欲求と自己顕示欲が強すぎるがゆえに、やがて身を滅ぼしていくという自業自得な映画でしたね。主人公の気持ちはわからないでもないですが、行動にはまったく共感できない狂気すぎる内容です。

<似たような設定の作品が多い中でこの映画の差別化ポイント>

今回の映画と似たような設定の映画ってちょいといあるんですよ。まわりからの注目やお金を得たいがために、危険な行為に身を投じるっていうの。『NERVE/ナーヴ 世界で一番危険なゲーム』(2016)や『スプリー』(2020)、『メインストリーム』(2021)なんかがそうですかね。現代社会を反映した設定だなーと感じるんですが、今挙げた映画って、いずれもSNSや動画配信を通じて不特定多数からもらう「いいね!」の数に翻弄される主人公たちを描いています。ところが、今回の映画においては、主人公のシグネが浴びたい注目はSNSなどではなく、生の人間からです。その証拠に、彼女がSNSに投稿するシーンは一切ありませんでした。自分の見える範囲内でまわりから注目されていると感じたいんだろうなっていうのが伝わってきました。

<やっていることは子供となんら変わらない主人公>

もともと人から注目されたい人物だったのかは定かではないですが、本編を観る限り、きっかけとなったのは物語冒頭で起こった事件だと思います。バイト先のカフェで犬に噛まれた女性を助けたんですが、他の人はただ傍観しているだけだったのに、自分だけが懸命に救助活動に当たり、警察(救急隊員だったかな?)から褒められたことに味を占めたように思いました。

そこからはもうすごいですよ。アーティストである恋人が開いた個展のオープニングパーティーでは、アレルギーがあるとウソをついてまわりから心配してもらい、彼のスピーチを邪魔したり。街中で見つけた犬に自ら噛まれに行ってケガをしようとしたり。呼吸するようにウソをつき、すべてにおいて自らを正当化する言い訳をするその姿は、まるで親に振り向いてほしくてわざと悪態をつく子供のようでしたね。

<自傷行為の末路は救いようがないほどの身勝手さ>

そんなとき、ネットでロシア製のリデクソルという薬を発見します。向精神薬だそうですが、副作用として肌に発疹が出てしまう危険な薬です。副作用に悩む人の肌を見て、「これならみんなあたしに注目してくれるかも」という短絡的な思考回路に、観ているこっちがショート寸前でした。最初は用法・用量を守って摂取していたみたいなんですけど、なかなか発疹が出ないことに業を煮やしたのか、あるとき大量に摂取したせいで、顔を中心に肌が目も当てられないほどひどく変質してしまうんです。一時期は『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―』(1994-1999)の志々雄真実かってぐらい顔中包帯だらけ。ところが、本人はそんなことおかまいなし。結果として自分に注目が集まるなら本望なんです。

その後もメディアの取材やモデルデビューなど、本人にとっては望ましいことが続くのですが、最後はついに体にガタが来てしまうという何とも救いようのない流れになっていきます。もうね、どうしようもないですよ。自分の承認欲求と自己顕示欲を満たすためだけに自ら選んだ道なんですから。まあ、人様を傷つけないだけまだマシなのかもわかりませんが。。。

<現代社会の闇を誇張しまくった内容>

結局のところ、この映画って最初に挙げた他の作品と本質的なところは同じなんですよ。SNSで他人と比較されやすい現代において、何者かになりたがる若者が、危険行為に身を投じることで注目を浴びるという短絡的な手段を選んでいるという点において。もちろん、何者かになりたいという願望自体は問題ないですし、僕も若い頃はよくそう思っていたので気持ちはわかるんですけど、本作のシグネが手段として選んだのが、ある意味自傷行為に等しいことだったというわけですね。その自傷行為を薬の副作用による肌の発疹にしたというところは新しいなとは思うんですけど、この手のジャンルだともうそこしか違いを出せなそうな気もします。あまりにもぶっ飛んだ内容なので教訓にすらなりませんが、注目を集めたいからといって健康を害することはしちゃダメだなってことはよくわかります(笑)

<そんなわけで>

ストーリーの本質的な部分は、これまでの同ジャンルの作品と変わらずって感じですが、これまで以上に主人公の病的な承認欲求と自己顕示欲は見どころだと思います。ただ、けっこうグロテスクなシーンも多いので、観る上ではやや注意が必要かもしれません。


この記事が参加している募集

#映画感想文

66,387件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?