見出し画像

なぜ世界の映画人が伊丹十三を絶賛するのかがわかる財務と性のエンターテインメント『マルサの女』

【個人的な満足度】

「午前十時の映画祭13」で面白かった順位:4/6
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:-
  製作年:1987年
  製作国:日本
   配給:東宝
 上映時間:127分
 ジャンル:ヒューマンドラマ、コメディ
元ネタなど:なし

【あらすじ】

港町税務署の調査官・板倉亮子(宮本信子)は、パチンコ店の所得隠しを発見したり、老夫婦の経営する食料品店の売上計上漏れを指摘するなど、地道な仕事を続けていた。亮子は、実業家・権藤英樹(山﨑努)の経営するラブホテルに脱税の匂いを嗅ぎつけたものの、強制調査権限のない税務署業務の限界もあり、巧妙に仕組まれた権藤の犯罪を暴くことができなかった。

そんな中、亮子は東京国税局査察部、通称「マルサ」に抜擢される。摘発のプロとして経験を積んだ亮子は、上司の花村(津川雅彦)と組んで再び権藤に対峙することになり……。

【感想】

午前十時の映画祭13」にて。1987年の日本映画。第11回日本アカデミー賞にて、最優秀作品賞をはじめ、6部門受賞した作品です。

<伊丹十三監督のすごさはキャラクター描写にあり>

よくインタビューとかで世界の映画人に、「日本で尊敬する映画監督は?」と聞くと、必ず出てくるのが黒澤明、小津安二郎、そしてこの伊丹十三です。「なんでそんな昔の人ばかりなんだろう」って思うんだけど、観ればわかります。選ばれる理由が。

で、伊丹十三監督のすごさって、やっぱりキャラクター設定にあると思うんですよ。すごく人間味溢れるんですよ。まずは、主人公の板倉。先に書いたように仕事一筋で、自分の案件は徹底的にやり切るプロ意識の高い人として描かれています。さぞバリキャリみたいなイメージをしがちですが、見た目はおかっぱ頭に寝癖がついており、顔にはそばかすがあるといったチャームポイントがあって、意外とかわいらしいんですよ。しかも、居酒屋で赤ちゃんに笑いかけたり、権藤の子供に目をかけたりと優しい一面もあるんですよね。そのギャップがまたいいなって。ちなみにこの赤ちゃん、おそらく年齢的に自分と同い年ぐらいかもしれません(笑)

次に、権藤。ラブホテルを経営する実業家ですが、裏社会とも通じてるほぼヤクザみたいな人です。金儲けへの執着がすごく、ラブホテルでは領収書をもらう客がなく、売上の除外が簡単にできることを利用して巨額の脱税をしています。他にも、死にゆく老人の名義を使ってダミー会社を作ったりと、やり口もけっこう悪質なんですよね。さぞかし怖い人物かと思いきや、ラブホテルの内装が遊園地みたいで少年っぽいところがあるという、これまたギャップある人なんですよ。自分の息子が夢見がちなところを悲観していたけど、板倉に「あなたの少年っぽいところが似たのかも」みたいなことを言われているところにはちょっとほっこりしました。

このようにギャップをうまく使いつつ、さらにこの映画ならではのポイントなのが、彼らの執念の振り切りっぷりですよ。板倉はその仕事っぷりが、権藤は金儲けっぷりが、それぞれ「そこまでやる?」ってぐらいの執念があって見ごたえありました。

<生々しい性的な描写も注目ポイント>

そして、この映画の特徴的なところとして外せないのが、やっぱり男女の絡みですよ。前回の『お葬式』(1984)でもそうでしたけど、伊丹十三監督らしい演出ですよね。冒頭で、先に書いた死にゆく老人が看護婦の乳を赤ちゃんのように吸っているところから始まる画は衝撃的でした。「あれ、観る映画間違えたかな?」と思うほど(笑)

また、権藤は呼吸するように愛人の乳を弄び、スカートの中に手を入れるんですが、今ここまでやる邦画ないですよね。この映画、無駄に乳出すぎなんですけど、それも昭和の時代性あってこのとでしょうか(笑)あと、ベッドシーンではスクリーンから汗臭さが漂ってくるほどのリアルさがあります。きっと、役者さんの息づかいだったり、汗ばんだ皮膚に反射する薄暗い照明だったり、そういうのが生々しさに拍車をかけているのかもしれません。愛じゃなくて本能によって突き動かされるセックスというか、すごく人間の動物な部分を描くのがうまいと思いました。

<ベテラン役者さんの若かりし頃がエモい>

この映画に限らないですけど、昔の映画を観ていると、今となってはベテラン役者勢の若かりし頃の姿が観れるのもエモかったですね。今回一番驚いたのが、『Dr.コトー診療所』シリーズで、柴咲コウさん演じる星野彩佳の母親を演じた山下容莉枝さんです。セリフもなければ役名も「花の少女」というだけで、人名のない端役で数秒しか映らないんですが、「赤ちゃんはコウノトリが運んでくる」と信じていそうな清楚な少女として出演されていました。当時23歳だそうだけど、どう見ても10代でしたね。実は、事前に出演されていたことは知っていたんですが、実際に観てもどの方かわからず、後で調べてびっくりしました(笑)

<そんなわけで>

まさに財務と性のエンターテインメントと言っていいぐらい面白い映画でした。今の邦画ってけっこう人を綺麗に描いている作品が多い気がしますけど、この映画は人間の本能というか動物らしい部分も浮き彫りにした心に深く残る作品でしたね。とにかく人物の魅力的な描き方がたまらんです。日本人としてぜひ観ておきたい1本だと思います。


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?