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自衛官一家がハワイで釣り対決したら、幹部自衛官の父が判定勝ちだった話

私は、父、母、兄弟全員が自衛官という自衛官一家に生まれた元女性自衛官だ。

私がハワイに住んでいた頃、家族が日本からわざわざ遊びに来てくれた。
当時、幹部自衛官だった父は初めての海外だ。普段自己主張をほぼしない父が、珍しく「ハワイの海で釣りをしてみたい。」と言うので、釣り対決をすることになった。
決戦はハワイ最終日だ。

乗り物酔いが酷い母は断固参加を拒否し、不戦敗。勝率が上がった。

参加したのは「さしみTSURIツアー」。船長さんや乗組員さんは全員アメリカ人だが、日本語でそう書いてあった。ちなみに参加者も、私たち以外は全員アメリカ人だった。

そのツアーの、「SASHIMI   II号」に乗船した。釣りスポットまで30〜40分かかるということで、その間にハンバーグとフランクフルトのランチが出た。ハワイの広い空、青い海を見ながらのランチは最高に美味しかった。その間に船は、沖へ沖へと進んで行った。


その日は風が強い日だった。波が高くてかなり船が揺れ、ランチを食べ終わった20分ほどで、私と弟は船酔いしてしまった。さっき食べたハンバーグとフランクフルトが、胃の中をぐるぐる回っている。最悪だ。

そんな中、釣りスポットに到着した。とりあえず釣果を上げなければ。早速釣り糸をたらした瞬間、 私と弟は2人同時にカワハギがヒットした。

SASHIMI   II号の第1号のヒットとなり、船長や乗組員たちの拍手喝采と「ヒューヒュー!」という声援が起こった。

SASHIMI   II号  第1号のヒット記念


嬉しかったのも束の間、そこから2人とも船酔いが悪化。

「もう釣りなんていいよ…。」
「1匹釣ったからもう陸に戻して…。」

と、2人並んで手すりにうつ伏せた。

船長さんは「海に吐いてOKだよ!」と言うものの、およそ20人はいるアメリカ人に見られながらのリバースには抵抗があったので遠慮した。

ふと父を見ると、
「お父さんも1匹くらいは釣りたいなぁ。」
と、波などないかのように釣りを楽しんでいる。


その後、誰かがヒットするたびに歓声が沸き起こり、オレンジ色の魚が釣れた時には

「ニモ! ヒューヒュー!ニモ!!」
(ファインディング・ニモ)

と大騒ぎだった。
楽しそうだ。私も混じりたい…。

それにしても、アメリカ人は船酔いしないのだろうか?私と弟の2人以外の乗客は皆、何事もなく釣りを楽しんでいる。…いや、日本人の幹部自衛官も1人、何事もなく楽しんでいるか。

ひたすらうつ伏せている私たちを見かねて、乗組員が船酔いの薬をくれた。2人とも、「Thank you!」を連呼してすぐに飲んだ。

すると… ね、眠い…。2人とも、猛烈な眠気に襲われた。アメリカ人向けの強い薬なのであろう。日本人の我々には効きすぎたようで、うつ伏せたまま眠りについてしまった。

ふと目が覚めると、ツアー参加者が、釣った魚をBBQしているところだった。父を探すと、全く英語を話せない父が、20人ほどのアメリカ人に紛れ楽しそうに魚を食べている。一瞬、昔参加した日米合同軍事訓練の光景が頭をよぎった。

そして、父の釣果はカワハギ1匹。
釣果としては、全員カワハギ1匹ずつの同点引き分け。しかし、状況的に父の勝ちであろう。判定勝ちだ。

そして翌日、3人はホノルル空港から日本へ発った。
1週間前、革靴にスラックスでハワイ入りした父は、ショートパンツにサンダル、そして日焼けした肌で手を振り、笑顔で搭乗口に消えて行った。

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