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アメリカで初めて911に電話した話

私が、ホノルルの某ブランドショップでセールスとして働いていた時のことだ。

少し日が沈んできた18時過ぎ頃、1人の男性が来店した。
30歳ぐらい、約170㎝、シャツにリュック。至って普通の若者だ。

彼は入店するなり、真っ直ぐポーチやお財布など小物が置いてある棚に向かった。
そして棚を挟んでカウンターにいる私に、ハワイ限定柄の小物を次々と掲げ、値段を聞いてくる。

現地に住んでいるローカルのようなイントネーションだったので、ここに住んでいるのかと尋ねると、言葉を濁す。ハワイ限定柄に興味を示すということは、観光客?それとも、州外の人へのプレゼント?と色々尋ねるのだが、彼は言葉を濁し続ける。

なんとも言えない違和感を覚えた。

店番が私1人のため、なるべく彼を視界に入れながら他のお客様を接客していた。私が近付くと、彼は棚の反対側へ移動する。
店内にある全身鏡で棚の反対側も見えるのだが、彼は背負っていたリュックを床に置き、棚の下の段の商品を触っている。
そして、常にこちらをチラチラ見てくる。
これは間違いない、盗られる、と確信した。

ここでお会計のお客様がいたため、一度レジに戻った。
その瞬間、店内にいた日本人のおばちゃんが私の元へ来た。

「あの~… 今、万引きされてましたよ?かなり大胆に、リュックと服の下にガサっと盗ってましたけど…。」

やられた…  初めての万引きだ…。

その時点で男はまだ店内におり、今度は小さめのバッグを物色していた。

分かっていたのに盗られた悔しさで、

「Excuse me, can I check your backpack?(すいません、リュックの中を確認させてもらえますか?)」

と言いつつ近寄ると、彼は明らかに動揺し、目が泳ぎ始めた。

「If you won't let me check, I'll call security. (もしチェックさせてくれないならセキュリティーを呼びます。)」

と言うと、そそくさと店の外へ逃げ出して行った。

その後すぐにセキュリティーに電話すると、

「We can’t do anything.  Call to police. (私達は何もできないから、警察に電話して。)」

と言われた。一体なんのためのセキュリティーだ!と思いながら、人生初のひゃくとーばん、ならぬ、911へコールした。

私は初めての万引きに緊張と動揺でかなりの興奮状態だった。しかし電話の向こうの女性がものすごく冷静なトーンで1つ1つ質問をしてくれたおかげで、徐々に落ち着きを取り戻して答えることができた。

「911、What's your emergency?(911です。どうしましたか?)」
「We were shoplifted. (万引きされました。)」
「Ok, what's your name?(あなたの名前は?)」
「Mari. (まりです。)」
「Ok, Mari.  Where is your store?(お店はどこ?)」
「△△ in Waikiki. (ワイキキの△△です。)」
「When did it happened?(いつ起こったの?)」
「Couple minutes ago. (2,3分前です。)」
「What did he or she look like?(どんな人だった?)」
「He looked like a local man around 30 years old, about 170cm tall, wearing a brown color shirt and carrying a backpack. (彼は30歳くらいの現地人に見えました。身長は170㎝くらいで、茶色のシャツにリュックを背負っていました。)」
「Ok, What did he stole?(彼は何を盗んだの?)」
「Four wallets and two cosmetic pouches.  Its about $200. (お財布4個とポーチ2個で、200ドル≒29000円くらいです。)」
「Did he hurt you?(彼はあなたに危害を加えましたか?)」
「No. He just left the store. (いえ、ただ店を去りました。)」
「Thank you Mari.  Wait for the police to come within 5minutes. (ありがとう、まり。5分くらいで警察が行くから、そのまま待ってて。)」

このような感じで終了した。

5分ほどして、警察官が2人来てくれた。さきほどの電話と同じ内容の質問をされた後、“Police report(被害届)”に、何があったか・盗られた物と金額、犯人像、を書き、最後に
“もし犯人を捕まえた場合は刑務所に入れて下さい”
といった文章と、自筆のサインを書いて終了した。

その後、興奮冷めやまないまま働いたせいか、なかなかの売り上げをあげることができた。(ありがとう?)

そしてこの件に関して、アメリカ人のマネージャーは「万引きは時々あるし、mariは悪くないから大丈夫。クビにもならないから安心して。」と、優しい言葉をかけてくれた。
しかし、「犯人は銃を持っている可能性があるから、絶対立ち向かわないでね、元自衛官だから戦えるかもしれないけど。」
と、厳重注意を受けた。

そ、そっちか…。

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