見出し画像

『宇宙より』

僕の家は宇宙船です。
地球のみんなを守るために、毎日宇宙を飛び回っています。
遠い星からの侵略者と戦うこともあります。
僕の宇宙船は頑丈なので、絶対に負けることはありません。
その点は安心してください。
パパは攻撃の名人です。
敵の乗り物、それは、鉛筆のようであったり、ドーナツのようであったり、アンパンのようであったりしますが、どんな形でも、パパは一発でうちおとします。
きゅうしょがあるんだってパパは言います。
そこを狙えばいいんだって。
僕はその宇宙船の優秀な少年隊員です。
そして、僕は今、あるじゅうようなニンムについています。

僕は敵の基地の中にいるのです。
敵の基地の中の狭い部屋に閉じ込められています。
どうして僕が捕まってしまったかというと、それは作戦なのです。
その作戦は、あの朝、ママから突然に下されました。
あ、宇宙にも朝があります。
でも、それは地球のみんなが知っている朝と少しがいねんが違います。
宇宙には時間がないからです。
時間というものは、地球の人たちが考えだしたものなのです。
お空が動いていると思っていた人たちは、やがて地球が回っていることに気がつきます。
でも、そこから先には進めませんでした。
そうたいせいりろんというのが惜しいところまで行っていたとパパは言います。

あの朝、ママは僕の手を握ってこう言ったのです。
「よく聞くのよ、あなたはこれから敵の基地にほりょとして潜り込んで、せんにゅうそうさをするの。これは、じゅうようなニンムなのよ」
そして、迎えに来た敵の四角い乗り物に僕はほりょのまねをして乗り込んだのです。
敵の運転手とママが親しそうに話しているのが気になったけど、あれもきっと作戦です。
ママは敵のスパイのふりをして油断させていたに違いありません。
その証拠にパパはその時、ずっと隠れていましたから。
敵の乗り物は、ガタガタ揺れるあまりいいものではありませんでした。

さて、この四角い部屋には小さな窓があります。
高いところにあるので覗くことはできないけれど、暗くなったり、明るくなったり、赤くなったり、紫になったりします。
時々、羽のある小さな生物がそこに止まって僕を見ていますが、あれは敵の見張りですね。
そんなことで僕を騙せません。
丸くなったり、細くなったりする星、あれがきっと地球でしょう。
僕はそうした細かいことをしっかりと覚えるようにしています。
今は通信の手段がないからです。
でも、そのうちにこの部屋からこっそり抜け出してパパとママに報告するつもりです。
食事も出てきますが、僕はあまり食べません。
自白薬が入っているかもしれませんからね。
そんなことは、せんにゅうそうさかんの基本です。
敵の食事係は、どうやら毎日僕が何を食べたかをメモしているようです。
きっと、それを見て、毎回僕が食べそうなものに薬を入れているのでしょう。
だまされないよって、心の中で舌を出しています。

あ、敵が来る。
ぞろぞろと、サンダルの踵を引きずりながら。
白衣のやつらだ。
僕は、ベッドに横になって寝たふりをします。
いやなやつらです。
僕のことを、おじいちゃんだなんて、わけわからないよ。
いつか、そこの杖で突き刺してやろうと思います。

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

97,050件

#眠れない夜に

69,694件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?