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『メガネ初恋』 # 毎週ショートショートnote

王子は、メガネを手にしたまま茫然としていた。
午前0時の鐘と共に、それまで一緒に踊っていた娘があわてて帰っていった。
引き止める王子の声に振り向く娘。
伸ばした王子の手には、娘のメガネだけがむなしくひっかかっていた。
翌日からお城の役人総がかりで、娘探しが始まった。
メガネを手に、一軒一軒娘を探し歩いた。
しかし、どの顔も王子の記憶にある顔ではない。
初恋の娘の行方は杳としてしれなかった…

「そして、これがね」
と彼は古いメガネを取り出した。
「代々我が家につたわるそのメガネなんだよ」
色褪せてはいるがかつては美しいピンク色であったことがうかがわれる。
それを見た彼女は、
「あの…」
と、鞄の中から何やら取り出した。
彼女が手を開くと、そこには鈍い光を放つ丸いボタンがあった。
「君、それは…」
実は、彼がひとつ話し忘れていることがあったのだ。

娘がメガネを王子の手に残したまま帰ろうとする時、王子は咄嗟に胸のボタンを外して、娘のドレスに忍ばせた。

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