『ブーメラン発言道』# 毎週ショートショートnote

お前の言葉はナイフのようだと言われた。
だから、発言にはじゅうぶん注意しなさいと。
確かに、俺は毎日自分の言葉を磨きあげていた。
俺の言葉は、月明かりに鋭く光った。

昔は、言葉といえば、紙に書いたり、口で発したりするものだった。
その名残りが「発言」という言葉だ。
めんどくせぇ。
今は、みんな言葉を相手に投げつける。

ある日、俺は「く」の字の片方だけを持って投げてみた。
すると、それは回転しながら宙をひと回りして俺の手元に戻ってきた。
これなら文句はないだろう。
俺は、何度も練習して、その技を習得した。
そして、「ブーメラン発言道」として、道場を開いた。
弟子も増え、俺は発言界の第一人者として君臨した。

ところがだ。
俺はある男の挑戦を受けて敗れた。
そいつの投げたのは「く」ではなく、「へ」の字だった。
「この方がひねりがきいて、よく回転するのさ。でもな」
そいつは、倒れた俺の手をつかんだ。
「ほれ、ほんとの言葉ってのは、こういうことさ」
泣けた。


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