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「アインシュタインと原爆」Netflix

「エネルギーは質量に光速の2乗をかけたものに等しい。だからわずかな質量を大量のエネルギーに変換することができる」
そう説いたアインシュタインは、こう続ける。
「現在の科学では、そんなことは不可能だろう」
そして
「発明は人類への祝福であり、呪いであってはならない」

しかし、歴史はあの天才をもってしても予測不可能な流れを見せる。
ヒットラー率いるドイツが、原子爆弾の開発に乗り出したという知らせが、アメリカに亡命中のアインシュタインの元に届く。

「軍は嫌いだ。暴力も嫌い。しかし今の世界で組織された軍隊に対抗できるのは、組織された軍隊だけ。他に方法はない」
「実際に悪事を犯す者より、悪事を容認する者が世界を危険にさらしている」

ドイツによる原子爆弾の利用を危惧したアインシュタインは、ルーズベルト大統領に手紙を書く。
「元素のウランが新しいエネルギー源になる。この技術を利用すると爆弾の製造が可能」であり、それは「非常に強力な新型爆弾」だと。
これが、「マンハッタン計画」へとつながっていく。
そして、広島での原子爆弾投下の日を迎える。
結局、世界で最初に原子爆弾を使うのは、ドイツではなくアメリカだった。

晩年、日本の記者、ハラ・カツの「なぜ人類の幸福を追求するはずの科学が、恐ろしい事態を招いたのですか」という手紙での問いに対してこう答えている。
「唯一の私の関与は、1905年に発表した質量とエネルギーの理論だけだ。原子力は理論上だけの話だと思っていた」
そう反論した上で、
「私は人生で1つ大きな過ちを犯した。ルーズベルト大統領の手紙に署名した。ドイツが原子爆弾の開発に成功する可能性があると思い、手紙に署名することにした」
「ドイツが原子爆弾の開発に成功しないと知っていたら、パンドラの箱を開ける手伝いはしなかった」
さらにこう続ける。
「状況を変えるには勇気ある行動が必要だ。私たちは全ての政治的理念に対して、根本から態度を変える必要がある。でないと、人類文明は滅びる」
「自然の力の知識が破壊的な目的に利用されても、人間を非難してはならない。むしろ人類の運命は私たちの倫理観の成長に懸かって意いるのである」

戦争に勝利しても、待っているのは平和ではなく新たな戦争だ。
平和を迎えるには、結局は人類の倫理観の成長を待つしかないのだろうか。
この日本人記者であるというハラ・カツを検索してみたが、何も見つからなかった。
というか、今や「アインシュタイン」で検索すると稲田と河合ばかりが出てくる。

物語は、ユダヤ人を排斥するヒトラーが権力を持ち、戦争へと突き進んでいく過程を背景に、アインシュタインの行動を描いていく。

核の戦争利用には多くの人が反対するだろう。
しかし、核の抑止力がなければ、我々は既に第三次、あるいは第四次世界大戦を経験していたかもしれないことも、悲しい現実として受け入れなければならない。
たった一国の、たった1人の残虐な行為でさえ止めることができない世界なのだ。

このドキュメンタリーにはその名前がないが、映画「オッペンハイマー」も間も無く日本で公開される。
合わせて見てほしい。
核の功罪とは悲しい言葉だが、考えなければならない言葉だ。

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