『呪いの臭み』 # 毎週ショートショートnote
おまえの文章には臭みがない。
そう、いつも言われていた。
3年になって、やりたいことも特にないので選択した創作ゼミだ。
15人ほどの学生の前で、教授はいつも俺の文章をそう批判した。
文章に臭みって、何だよ。
他の奴に聞いても、わからない。
そのゼミに出続けたのは、終わってから飲みに連れてくれるからだ。
と言っても、毎回、学生街の安酒場だったが。
ある時、その安酒場で、ホッピーを飲みながら、教授に尋ねてみた。
臭みって何だ。
そしたら、教授の奴、俺の耳に口を近付けて、いよいよ秘伝の、と思ったら、囁き声で、
「俺の安月給じゃ、教えられねえよ」
その教授が亡くなった。
卒業後も、俺は呪われたように臭みを探して書き続けた。
いくら書いても臭みなんて見つからない。
それでも、俺の文章を買ってやろうという奴が何人か現れてなんとか暮らしている。
焼香をして、遺影に手を合わせる。
臭みってのは、安くないぜ。
そんな声が聞こえてきた。
俺は、俺の臭みを見つけるさ。
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