『私の故郷』
駅の名前は変わっていない。
この町だ。
列車を降りる。
背後でドアが閉まる。
歩き出した。
襲ってくるもの。
舞台じかけのように動きだした時が、ゴトリと音を立てて止まる。
高架になった駅ビルが言う。
夢破れたか。
路地だった大通りが言う。
みんな変わったよ。
新しいショッピングモールが見下ろしている。
みんなを捨てたというのは、お前か。
花屋はファーストフード店に。
あたしのせいじゃない。
擦り切れた看板の化粧品店。
待っていたのに。
灯りの消えた喫茶店は背を向けたままだ。
遠くから子供の泣き声が聞こえる。
何十年も泣き続けてきたような。
さびれた商店街。
通って行きなさい、お前の家まで近道だ。
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