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聴くのはむずいよ ~『LISTEN』『他者と働く』を読んで

 現代人の悩みの大半って人間関係ですよね。企業内の問題も突き詰めると社内コミュニケーションだったりする。ということで売れているらしいこの2冊を読んでみました。

1冊目『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』

あなたは人の話を聴いていない

 原題は ”You’re not listening.”  そう、聴けていない自分を自覚して読み始めました。たとえば、”「次に何を言おう」と考えている方がかえって不適切な返答をする”(Chapter 6) ああ、私のことだあ!”「アドバイスをしよう」と思って聞くと失敗する” (Chapter 12)  これも私がよくやってしまうことだ!もう、思い当たることがたくさん。
 一方、聴けている人は本当にすごい。元CIA局員は、バーカウンターであらゆる人の身の上話を聞き出してしまう。ほとんど自分の話はしないのに相手に気持ちよく語らせてしまう何かを持っている。家具のトップセールスは、ほとんど何もしゃべらずに高級家具をふたつもみっつもさっさと売ってしまうのだそう。

大事なことはテクニックではない

 本当に聴くには、相手が話し終わるまで待つとか、相手のことばを繰り返すとか、アイコンタクトとか、そういうテクニック的なものだけではダメなのです。もっとも大事なことは「傾聴」。私が読んだあるコーチングの本には、傾聴とは「相手を全身で受け止めること」(物理的にではなく精神的に)とありました。
 この本でも、相手の語った表面上のことば(事実)にとらわれずに、相手の奥底にある感情や本音を感じることが「聴く」ことと強調されています。
 たとえば「別のフロアに異動になったの」という同僚の言葉に、異動の事実のみとらえて「そうなんだ」とか「(引越用の)段ボール箱いる?」とか返すのはNGなのだそうです。表情や声色から期待や不安や寂しさなどを読み取って、「不安かもしれないけど、いい人いるよ」とか「明日から頻繁に会えないけどまたランチしようね!」とか言ってあげられるのが聴ける人なんです。(でも私は前者のようなことがしょっちゅうあるよ)


聴くには何が必要か、聴けると何が起こるか

 しっかり聴けるようになると、交渉が上手くいくとか、家庭が安定するとか、色々といいことがあります。私がそれそれ!と思ったのは、ひとりではできなかったことが、相手の話を聴くことで化学反応が起こりすごいアイディアが生まれるということ。これって「対話」ですよね。必要なのは、「好奇心」なんですって!相手に関心を持って自分のことは空っぽにして聴くこと。そして聴くことは人生を面白くし、自分自身を面白い人にするそうです。そうなりたい。

2冊目『他者と働く』──「わかりあえなさ」から始める組織論

溝に橋を架ける

 「わかりあえなさ」ーそれは価値観、置かれた立場によって優先するものが異なることから生まれるものです。2冊めの本の著者はこれを「ナラティブの溝」と呼んでいて、私は文脈の相違みたいなものと解釈しました。あなたのナラティブ(文脈)とわたしのナラティブ(文脈)には深い溝があるので、理解し合えないのです。そのナラティブとナラティブの間に横たわる深い溝に橋を架けましょう、というのがこの本の話です。
 たとえば営業のミッションは売上で、法務のミッションは法令順守です。「こんなリスクある契約とってこないでよ、営業の人」「契約とってきてこそナンボでしょ」と対立しそうですよね。でも相手の組織のミッション(ナラティブ)に立って一度眺めたり、お互いの仕事の一部を体験したりする(対岸のナラティブに渡る)ことで、相手の主張や行動がわかるようになります。それから相手を支援する発想が生まれ、対立から対話に変わり、双方よい方向に変化するのだそうです。

文脈の最上位にあるもの:Why


 とはいえ、気が付くとナラティブの溝の対岸に行ったまま帰ってこない(迎合)になったり単なる対立回避(無関係)になってしまうこともあります。そうならないよう「何のためにこの仕事をしているのか」「なぜがんばっているのか」を意識し、誇り高く生きることで見失わなくなると著者は言っています。これって今はやりのパーパスですね。そうです、パーパス(Why)は組織の壁を乗り越える力があるとこの本で再認識しています。逆にいえばWhyが薄い会社は容易に縦割り構造に陥る怖さも感じました。

3.実践してみました

 上記2冊を読み、「傾聴」と「相手のナラティブ(文脈)」に配慮すれば、かなり人の話を聴けて、かつ上手に対話ができそうな気がしてきました。どちらも仕事や家族との会話にも使えそうなので早速実践です。特にビジネス上の関係では、相手のナラティブを理解することで、忍耐強く聴く力も上がってきたような気がします。私には、世代も経歴も価値観も異なり「この人何言ってるんだろう」と感じていた人がいました。その人のナラティブを考えることでニュートラルに話を聴けるようになり、そして充分話を聴いてから自分の意見を加えることで建設的な対話になりました。この2冊最強!と思いました。おすすめです!

 しかし、やはり聴くことは難しい。ケースとして、AさんのBさんに関する悩みを聞くとき(しかもAともBとも関係が深い)には注意が必要。具体的には妹の父に関する相談でした。本来、相談者の妹のナラティブに立って話を聴くべきところ、父のナラティブにも想いが至ってしまいます。私は妹の話を充分聴いてあげる前に「お父さんの立場(ナラティブ)ならこう感じるんじゃないの?」と溝に橋を架けるようアドバイス(妹にとっては説教)をはじめてしまいました。皆さんの想像どおり、妹は機嫌を損ねてしまったのです。
 ハッと気づいた時は遅し。その後妹の言い分を長々と聞き続けたことで機嫌は直り、最終的に父のナラティブも理解してくれましたが、順序を間違えなければ時間はたぶん半分以下で済んでいたことでしょう。はあ。聴くって本当に難しい。

ー END ー

出典:
『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』日経BP社
 ケイト・マーフィ (著), 篠田 真貴子(監訳) , 松丸 さとみ (翻訳) 

『他社と働く』──「わかりあえなさ」から始める組織論
NewsPicksパブリッシング 宇田川 元一 (著)











IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!