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シンガポールでコロナ対策アプリが苦戦する理由とは?

コロナ対策としてアプリやデータを活用した取り組みでは徐々に政府の議論でも進みつつあります。

IT技術を担当する竹本大臣は5月上旬にもアプリを公開して対策を行うことを発表しています。

日本に先んじで3月からアプリを提供始めているシンガポール、イスラエルなどの国では100万を越えるダウンロード数を記録するなど期待が高まる一方で、徐々に課題も見え始めています。

今回はコロナ対策で注目されるアプリの課題と各国でどのような議論が行われているかを整理して紹介したいと思います。

コロナ対策アプリの種類

コロナ対策アプリ開発に関する議論は欧米やシンガポールのみならず、全世界で議論が行われています。

現在議論されているアプリの種類としては以下の種類が上げられます。

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それぞれ最終的な目的としては感染の拡大を防ぎ、正常に生活できる環境に戻ることを第一に掲げていますが、国によって状況が異なるため欧米とアジア圏では少し異なる議論が始まっています。

感染追跡型と免疫証明型の違いを紹介したいと思います。

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感染追跡型

日本で主に議論されることが多いのは感染追跡型のアプリで、シンガポールやイスラエルで実際に提供されているものと同じ種類になります。

アップルやグーグルが進めている機能も感染追跡型のものになります。

感染追跡型のアプリや機能に関しては、個人のデータプライバシーに配慮した設計が各社・団体で幅広く議論されており、データプライバシーに関する議論が声高に行われています。

感染追跡型は感染者の数に限らず世界各地で議論が行われており、データを保有するものからデータを保有しないもの。Bluetoothなどの無線通信を活用したものからGPSのような位置情報を利用するものまで数多くのアプリが誕生しています。

免疫証明型

日本ではあまり免疫証明型に関する議論が行われていない印象がありますが、一部の欧米諸国では感染者の拡大と並行して回復者の社会復帰も含めた考えから免疫を証明する仕組みとしてアプリを活用できないかという議論が行われています。

これは "Immunity Passport" と呼ばれる証明書をアプリ上に書き込み自身が既に免疫を持っているということを証明することで、安全であるということを伝える役割を持っています。

(動画:What is a Covid-19 immunity passport?)

感染追跡型と異なる点としては、免疫証明が難しい点と一気に数が拡大することが無いため普及に時間がかかるという点です。

そんな中でチリなどの国では既に検討が始まっています。

全世界では既に83万人以上(4月25日データ)の人が回復しており、290万人以上の総感染者数に対して2割強まで増加してきています。

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(画像データ:Worldometer 4/25データ

一度感染することによって十分な免疫が科学的に証明できるのであれば、感染追跡型と並行して社会全体の正常化を考える上で免疫証明型の取り組みも検討していく必要があります。

カーネギー国際関係倫理協会では双方の取り組みに対する見解をチューリッヒ工科大学のEffy Vayena教授(感染追跡型)、ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のJeffrey Kahn教授(免疫証明型)が解説しています。

(動画:Effy Vayena & Jeffrey Kahn: Health Data, Privacy, & Surveillance: How Will the Lockdowns End?)

どちらの取り組みもデータを取り扱うモデルのためプライバシーやデータ倫理に関する言及が行われており、データプライバシーを前提とした利便性の設計は一つの大きなテーマになっています。

コロナ対策アプリの現状

既にコロナ対策アプリが開発され多くの利用者がダウンロードを行なっている国としては、韓国や中国などが上げられます。

上記のアプリに関しては政府が個人のデータを管理する事に対して一部疑念の声も上がっていますが、感染者数の増加などを考えると現時点では成功しているのではないかと考えられています。

ここで紹介したいのは上記の国と比較して、データプライバシーをできる限り優先して取り組んでいるシンガポール、イスラエルの現状に関して比較して見ていきたいと思います。

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(データ:Worldometerより参照)

シンガポール

イスラエルと比較した特徴としては、圧倒的に感染者に対する死亡者数が少ない(0.1%以下)というのが特徴です。

感染者数を抑える事ができれば低水準での死亡者数を維持する事ができる予測に加えて、回復者数が今後増えていく事で徐々に正常化への道筋が広がっていくのではないかと考えられます。

こうした中で3月20日の早い段階から感染追跡型のアプリをシンガポール政府では公開し、感染者数の抑制の取り組みを行なっています。アプリ提供開始からどれだけ感染が抑制できているのかを見ていきたいと思います。

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(データ:Worldometerより参照

現時点でのシンガポールの感染者数を見ると4月に入ってから右肩上がりで拡大している事がわかります。この推移で注目したいのは本来アプリが目的としていた感染者数の拡大を押さえ込めていないという事です。

外国人労働者の宿泊施設など低賃金の労働者の方々が密集する地域でクラスターが発生し、感染者数が一気に拡大しています。

3月下旬までは抑えられていた感染者数が一気に拡大した事でシンガポール政府は外出制限を強化するなど対策を余儀無くされています。

アプリのダウンロード状況に関しては100万ダウンロードを越えるまでまで拡大したものの、全人口の4分の1程度というのが現状です。

現時点ではアプリによって感染のペースを抑えるところまでは至っていないと考えられるため、引き続き改善を進めていくステージです。

イスラエル

シンガポールほどではないものの感染者に対する死亡者数は1%台と拡大を抑える事ができている状況です。シンガポールのアプリと比較するとイスラエルではBluetooth情報以外にもGPSの情報などを取得してより適切に感染経路の追跡を行なっているのが特徴です。

感染者数の増加を抑制し回復者数を増やしていく事で、今後は正常化への道筋が見えてくると考えられます。

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(データ:Worldometerより参照

実際に4月25日のデータでは感染者数を回復者数が上回り徐々に良い方向へと向かいつつあります。

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(データ:Worldometerより参照

全体の感染者数で見ると4月半ばから徐々に下がってきており、今後この傾向を維持する事で正常化への道が開けていく可能性があります。

イスラエルでは感染拡大を防止するために3月22日以降にアプリの提供をスタートし、150万以上のダウンロードを記録しています。

全人口の60%(約880万の人口に対して約528万人)のダウンロードを目指して国として取り組みを進めている状況です。

アプリの拡大が直接感染の抑制に関わっているかどうか因果関係を証明する事は難しいですが、現時点のデータからアプリ提供を始めた国によっても一部違いが出てきている事がわかります。

シンガポールのアプリから見えてきた課題

シンガポールでは政府を中心として一早くからアプリの開発を進め普及に向けて取り組んできました。

Tracetogetherと呼ばれるアプリはシンガポールだけでなく、欧州や日本でも参考事例として取り上げられ各国での開発が進んでいます。

オープンソースでの開発環境を準備して各国が連携して取り組める仕組みを設計するなど、最先端で取り組んでいる素晴らしい事例です。

データプライバシーに配慮し、「個人が自発的にダウンロードし利用する事を前提とした設計」思想を元に開発が進められています。

一方で個人の自発性に頼りすぎるため多くの人に普及せず、必要とされた機能がうまく活用できていないのではないかというジレンマも起きています。

ここではいくつか課題に上がっている機能に関して検証していきたいと思います。

・ダウンロード数の壁Bluetoothでの接触感知数問題)
・アクティブ利用者の壁(デバイスの設定問題)

Bluetoothでの接触感知数問題

GPSなどの位置情報から個人の場所を特定するのではなく、Bluetoothと呼ばれる無線通信を活用して、デバイス同士が接触感知を行う仕組みを採用しています。

(動画:TraceTogether: Community-driven contact tracing to stop the spread of COVID-19)

データが個人のデバイスに記録され登録時の電話番号以外の不必要な情報を提供する必要がないためにデータプライバシーへの配慮が行われているものです。

個人のデバイス(スマホ)同士での接触感知になるため、どうしてもダウンロードして機能を動作する作業が必要になってきます。

オックスフォード大学が4月16日に発表した調査では感染追跡が機能するためにイギリスの全人口に対する56%、スマートフォン利用者の80%が利用している必要があると発表しています。

シンガポールでは現時点での利用者が20%以下に止まっており、今後正常に機能するために多くのダウンロード数を実現する必要があります。(アプリ発表前月に実施した500人への調査では70%が活用すると表明していた

ダウンロードに関しては個人が自発的に行うような設計になっているため、今後新たな対策が必要になります。(これまでは広告などのキャンペーンではなく、大企業や組合に対して自発的に利用の呼びかけを行っていた

デバイスの設定問題

ダウンロードが増えたとして、次にデバイスごとの機能のオン、オフ設定の問題が発生します。

デバイスから感知する際に、アンドロイド利用者に関してはバッググラウンドで処理が自動で行われる仕組みになっていますが、iOSの場合はフォアグラウンドで処理が行われるため個人が自発的にアプリを起動した状態にしておく必要があります。

iOSでダウンロードが行われても感知が作動しない可能性もあるため、公共の移動サービスや混雑した場所などに訪れた場合にはアプリを起動するように通知を行う設計を始めています。

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さらに、Google、Apple双方の "コロナ対策アプリに関しては政府機関や保険関連のNGO、企業でも保健相などから利用を認められた事業者" などに限定する規約に抵触しないような取り組みが必要になります。

アプリ開発に利用者視点を入れるべき理由

スタートアップ業界ではこれまで当たり前に考えられていたアプリのダウンロードとアクティブユーザーの話が、コロナ対策アプリでも浸透までの一つの壁になっています。

実際にダウンロードしてもらった後に、積極的な利用を継続的に促す設計になているかどうかが感染拡大の防止につながるかどうかを大きく判断する決め手になる可能性があります。

イスラエルで進めているHamagenアプリでは個人同意の下でGoogleの位置情報と連動させて14日間の行動履歴を自動で組み込める仕組みを次のバージョンで設計しています。

韓国や中国の例を考えると政府が積極的にデータを取得し行動を制限することによって感染を抑え込むような事例も出てきています。

勿論、データプライバシーを前提としてシステムやデータ利用に関する設計を行うことは必要ですが、過剰にデータ取得量少なくしてしまうケースや、データの提供を全て個人に依存してしまうと本来達成するべきだった目的を達成できなくなる可能性もあります。

取り上げたイスラエルとシンガポールのアプリの比較、そしてシンガポールアプリのこれまでの課題から以下の点が参考になるかと思います。

利用者視点でデータプライバシーと利便性の両立を図る
データを取得する目的を明確にし、目的に沿った形でデータプライバシーに配慮を行う
開発者視点だけでなく、利用者視点を前提に考えて設計する(スマホを持っていない人の場合はどのように対処するのか等)

シンガポールで起きている事例からクラスターが発生する地域などを考えると果たしてアプリが正常に起動でき、ダウンロードしてアクションが起こせるのかなど幅広い視点から議論を行う必要があります。

ITの専門家に限らず、心理学や行動経済学、社会工学などの専門家をチームに入れるべき理由としては利用者視点や目線を入れる必要があるためで、日本でも新しい取り組みを検討する際には参考にしたい考え方です。

※一部感染等に関する解釈を紹介していますが、個人の意見として書いているためあくまで参考内容で科学的見解ではありません。

引き続きCOMEMO記事を読んで頂けると嬉しいです。

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