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nuclear development はどう訳す?

本日は、英文和訳問題形式で社会問題を考えてみたいと思います。

nuclear developmentとは?

以下の英文和訳問題にはどう答えますか?

Q. nuclear development を和訳しなさい。

意外と悩むのではないでしょうか。この用語が使われた前後の文脈にもよりそうです。例えば、もう少し付属のことばがついていたら、
development of nuclear weapon ➡ 核兵器開発
development of nuclear power plant ➡ 原子力発電所の開発
と、迷わずに訳語を充てられるのではないかと思います。

nuclear power=核力 とならなかったのは?

では、nuclear powerならどうでしょう? 原子力、あるいは原子力エネルギー、という訳をイメージするのではないでしょうか?

私が調べた殆どの英和辞典で、nuclearには、"原子力の、核の"という日本語が紹介されていました。私には、原子力=平和利用・民事利用、核=軍事利用、のような刷り込みがあり、原子力=ポジティブ、核=ネガティブなイメージが浮かび上がってきます。

ところが、以下のような英文を見ると、nuclearは、"(原子)核の"が本来の意味であるように思えます。

Nuclear power is the use of nuclear reactions to produce electricity. -Wikipedia

nuclear power=核力でもよかったし、その日本語訳の方がより実情には近そうです。それがなぜ、”原子力”という形に定着されたのか? 意図的な狙いがあったのではないかと勘繰ってしまいます。”原子力”という訳語には、atomic powerの方が自然です。

『原子力発電』に隠された意図

この問題を提起しているのは、小出裕章氏(1949/8/29-)です。長年に渡り、原子力発電の持つ差別性と日本の原子力発電行政の問題を指摘し、批判と完全撤廃を主張し続ける原子力の専門家です。

原子力発電技術は、核兵器開発の過程で生まれた技術の民事転用で生まれたものであり、日本へのビジネス転用を推進したのはアメリカです。一部の政治家、官僚、民間企業が推進し、田中角栄氏の剛腕によって成立した電源三法などによって制度整備がされ、利権ビジネス化した歴史があることもよく知られています。原子力発電に関する各種の技術が、核兵器の開発・製造・運用技術と親和性があるのは事実です。

小出氏が主張している、日本の原子力発電の裏に、自衛隊の将来の核武装の可能性を担保する目的が隠されており、日本の安全保障の一翼を担う政策なのだ、というのもおそらく事実だろうと思います。

ことばで緩和される真の恐怖

本日のテーマを選ぶきっかけは、普段は滅多に読まない毎日新聞2021/5/2版に掲載されていた小出裕章氏についての記事でした。

原子力発電の問題をこの記事で論じるつもりはありません。『賛成派』『反対派』とレッテルを貼って、二元論で議論する風潮にも馴染めません。過去と現実を真摯に直視した上で、未来のあるべき方策を建設的に議論すればいいと思います。

この記事で考えたかったのは、ことばによってイメージ操作されてしまう危険性についてです。太平洋戦争中に広島と長崎に原子力爆弾を投下された原爆被害国である日本で、もしも"nuclear power=核力発電"という名称であったなら、もっともっと強い拒否反応が起こり、反対意見はもっと根強かったような気がするのです。

『ゲンパツ』『フクシマ』と総括してしまうことでイメージの単純化・固定化が進んでしまい、本当に大切な問題が薄れてしまう。その結果、私たちの生活に影響を与える可能性があり、注意深い議論が必要な問題が隠蔽されてしまう危険性を感じます。

この所、原子力規制委員会の審査が完了し、相次いで日本各地の原子力発電所の再稼働にゴーサインが出されています。使用済核燃料の処理問題は未解決のまま先送りされ続けています。ちょっと気をつけておいた方がいい動きだと思っています。

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