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しっかり考えてみる⑦:加速主義

『しっかり考えてみる』シリーズの第七回は、『加速主義』を選んでみました。数年前から、目にしたり、耳にしたりすることが増えていて、強い興味を持っているテーマです。現時点では、断片的な知識しか持っていないかなり難しいテーマでもあります。これから更に体系的な理解を深めていく第一歩とすべく、現時点での浅薄な情報を記しておきます。

加速主義とは?

加速主義(accelerationism)とは、根本的な社会変革を促す為には、現行の資本主義システムをもっと強烈かつ大胆に拡大させるべき、という考え方とされます。政治理論や社会理論としても援用されています。

加速主義にも、左派(資本主義を飼い馴らす)、右派(資本主義を一層推し進める)など、中身の異なる幾つかの立場があると言われます。このあたりの違いは、まだまだ勉強不足で、気の利いた説明はできません。

加速主義を支持する有名人には、英国出身の哲学者・著述家で、「加速主義の父」 とも呼ばれている右派加速主義者のニック・ランド (Nick Land 1962/1/17-)や、Paypal創業者で米国人投資家のピーター・ティール(Peter Andreas Thiel 1967/10/11-)などがいます。

日本では、加速主義に好意的な評価を与えている論者の一人に、社会学者の宮台真司氏(1959/3/3-)がいます(本人は、「条件付での」加速主義を支持していると言っています)。彼によれば、日本社会は、もはや修復不可能な程の無数のクズが跋扈するクソ社会になってしまったので、むしろ積極的に崩壊を加速させよ、という趣旨の発言をしています。中途半端な修正主義ではなく、徹底的に社会を破壊し尽くした先に訪れるディストピアの到来を待って、その絶望感の先に、新たな社会を構築していこうという立場と理解します。

加速主義への私見

加速主義の拠り所は、テクノロジー・技術革新だと言われています。その進化は止まらず、人間主導と考えられてきた領域を侵食する動きは拡大する一方になります。昨今のAIの深化によるシンギュラリティの到来と絡めて、加速主義もテーマに上がることが増えた印象があります。

私個人は、テクノロジーの絶対的信奉やエリート主義思想を(感覚的には)気持ち悪く感じており、加速主義と言われるもの、加速主義的と言われている考え方には、なかなか親近感が湧きません。まだ周辺情報をなぞっている段階であり、今後考え方が一変する可能性も否定しませんが、社会に広く受け容れられ、定着する思想ではないのではないか、と予想しています。

ただし、無視を決め込みのは危険過ぎる考え方なので、理解する努力をしたいと感じています。

政治思想としての加速主義

加速主義は、制度疲労が隠せなくなってきている民主主義に対するアンチテーゼという側面もありそうです。民主主義の理想自体は確かに素晴らしいかもしれないものの、実践がすこぶる難しくなってきている、民主主義の建前の下に確立された制度の濫用や悪用も目立つ、という問題意識は強くあります。

所詮大衆の意思なんて信用できない、秩序無き民主主義は最終的にはポピュリズムに堕する、という研究や理論も発表されています。独裁的な手法で運営される国家の効率や生産性が、民主主義国家と言われる国々を、パフォーマンスで上回っているという研究報告もあります。これまで支配的だった常識の転換点に差し掛かっているということかもしれません。

今回記事化を試みたことで、加速主義に関連する新反動(neoreaction)、暗黒啓蒙(Dark Enlightenment)、新官房学(neocameralism)といった興味深い用語にも出会いました。山本圭『現代民主主義』(中公新書2021)などで政治理論の変遷の歴史を学びつつ、加速主義の潮流について理解を深めていきたいと思っています。


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