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名言が与えてくれるもの36:のんびりするのは勇気がいる。知恵がいる。我慢がいる。

名言が与えてくれるものシリーズの36回目は、つい今しがた出会ったばかりの『のんびりするのは勇気がいる。知恵がいる。我慢がいる。』です。このことばは、私が2年間(2019.10~2021.9)の自発的隠遁生活時代に痛感した印象を見事に言い当ててくれていると感じます。

池内紀氏のことば

このことばは、晩酌後に読みはじめた、池内紀『ひとり旅は楽し』(中公新書2004)の「出かける前ーまえがきにかえて」に書かれていたことばです。

私が引用したことばに続いて、以下の文章が続きます。

というのは、いまの世の中の構造が、人をせかし、動かし、引き廻して、お金を使わせるようにできているからだ。だから世の中の仕組みと知恵くらべするようにして、自分の旅をつくらねばならない。

P. ⅶ

池内紀氏(1940/11/25-2019/8/30)は、兵庫県姫路市出身のドイツ文学者。東京大学文学部教授などを歴任した研究畑の人です。一方で、名文家としても知られ、幅広い分野に渡るエッセイ・随筆を残しています。池内氏については、死の直前に刊行された『ヒトラーの時代-ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか』(中公新書2019)の記述内容に対して、主にドイツ史や政治史専門家から、「歴史的事実の誤認や池内氏自身の考えによるきめつけがみられる」といった趣旨の批判が巻き起こりました。氏は、議論が二転三転する騒動の最中に、持病の悪化で亡くなられました。

私自身は、当意即妙・硬軟自在の文体に惹かれ、割と昔から愛読する著者の一人でしたし、物議を醸した書は読書感想文を残すくらいに面白いと感じたので、氏が気の毒だと感じました。

旅と人生の類似点

旅は、しばしば人生に喩えられます。時代が便利になるにつれ、もともとは決死の覚悟で敢行するものであった旅は、随分とカジュアルで、安全なものになりました。人生もまた、先達たちが遺した多くの事例研究や悲劇の歴史を教訓に、イージーに人生を「ハック」する手法まで編み出されています。

著者の池内氏も認めるように、ひとり旅の苛酷さは薄れ、レクリエーションの要素が強くなっていることは確かです。現代の旅は、多忙な日々をしばし忘れるための息抜きや、豪華さを競って自分をアピールしたり、他人にマウントしたりする手段として位置付けられるようになってきています。

私は、2年間隠遁生活を送ったので、「のんびりする」のは想像以上に大変だという意見に深く頷き、そして噛み締めることができます。その経験は、私の人生にとって、プラスか、マイナスか、という二択であれば、間違いなくプラスです。とはいえ、孤独や不安や周囲の視線には耐えなければならないし、次から次へと登場する現代文明の利器や空気にどっぷりとつかり、野性の感覚が麻痺してしまっていた私には、瞬間的に沸き上がってくる煩悩は最後まで捨て去れませんでした。

ただ、それも終わってしまうと、当時を懐かしみ、当時に戻りたくなるのも、旅と似ています。後数年後には、嫌でも再びあの時間が戻ってくる筈です。その時はもっとうまくやってやろう…… 準備と計画は怠らずにやろう…… 今から知恵をつけて訓練しておこう…… と考えています。

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