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『ヒトラーの時代』を読む

本日の読書感想文は、池内紀『ヒトラーの時代』です。

ヒトラーの時代の知識

ヒトラーやナチスに関する本や情報は世の中に無数に出回っています。あとがきには本書の執筆理由が以下の通り語られています。

しがない泡沫政党の党首だった男が、急テンポに国民の人気をつかみ、みるまに権力の座を駆け上がった。その理由を知りたい。まさに一夜にして独裁者に成り上がり、またたくまに独裁制を完成させた。その秘密を知りたい。(P257)

1889年オーストリア生まれのヒトラーが、ワイマール共和国の元首ヒンデンブルク大統領からの指名で合法的に首相に就任したのが1933年1月30日。敗戦濃厚となりベルリンの指令地下室で自殺したのが1945年4月30日。享年55歳。ヒトラーが権力の中枢にいたのは12年と3カ月間です。

本書ではヒトラーが政治家デビューし、独裁者として人気絶頂にあった1925年から1938年頃の約15年間に焦点を当て、テーマ別に書かれています。

独裁者の台頭を許した時代背景

フランス革命がナポレオンの登場を促したように、ヒトラーの台頭は、第一次世界大戦のドイツの敗北及び屈辱の戦後状況と不可欠です。

当時の時代背景を理解しておかないと、残虐で極端で危険な思想を持つナチスをドイツ国民が支持した理由が掴めません。ナチスは形の上では合法的に成立した政権です。当時のドイツは、賠償金負担とハイパーインフレの進行で瀕死の状態にあり、救世主を求める空気が充満していたと想像します。

亡国の危機にあったドイツ経済を矢継ぎ早の施策で立て直し、ドイツの尊厳を取り戻してくれるという期待を高めた。もしも最初の4年間で政権をおりていれば、ヒトラーは名宰相としてドイツ史にその名を刻んだことは間違いないと言われています。このことは、歴史的事実として受け止める必要がありそうです。巧みな報道と宣伝戦略で、業績が過大に誇張されている可能性はあるにせよです。

苦しくなるほどの残虐さ

とはいえ、ナチスがアーリア人種以外の民族に行った差別政策や虐殺行為、粛清政策には、おぞましいものがあります。人間として、なぜにそこまで非道になれてしまうのか、心底恐怖を感じます。

歴史が第二次世界大戦に勝利した連合国寄りに操作されている可能性はあります。それでも、多くの人が同意するようにヒトラーやナチス政権は人類にとって間違った政策を行っていた集団だったと感じます。排除され、否定されるべき存在だったと感じます。

当時からナチスの残忍性、暴力性に疑念や嫌悪を抱いて人も多数いたと思います。それでも時代を覆う同調圧力への恐怖は強力で、感覚が麻痺した状態から抜け出せなかったのかもしれません。当時の被支配層の人々の心理状態に同情せざるを得ません。

あの時代を学び続けたい

現代の状況は、約100年前の1900年代前半に酷似していると感じています。歴史は繰り返すし、これから先も災難は起こり続けると覚悟しています。

その為にも1900年代前半に、世界で何が起こっていたのかは学び続ける努力をしたいと思っています。当時のヒトラーやナチスが政権奪取や民衆支配の為に用いていた手法は、テクノロジーの進化で形を変えたとはいえ、現代でも確実に活きています。


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