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『横浜イノベーション!』を読む

本日は、内田裕子『横浜イノベーション!』(PHP2019)の読書感想文です。

本書の重心は、今の日本に不足している「イノベーション」の起こし方の提言にあると思うのですが、私は「横浜」にまつわる話の方に強く興味を惹かれました。

『第一章 「みなとみらい」ができるまで』、『第二章 横浜の原点』では、これまで知らなかったみなとみらい開発の経緯や、幕末に突如日本史の舞台に登場した横浜の歴史が整理されていて、大変興味深く読みました。

著者の内田裕子氏は千葉県出身、東京都在住で、横浜出身ではありません。それ故なのか、外から見た横浜への視点が「我が意を得たり」でした。

横浜は日本の縮図だ。横浜には何でもある。横浜を見れば日本が見えてくる。それは長所だけではなく、もちろん欠点もだ。ー まえがき

この指摘は的確だと思います。横浜の抱える問題が、日本の抱えている問題と非常に似ていると感じます。
● 高度経済成長時代の早い段階で東京のベッドタウンとしての開発が進んだので市民の高齢化が進んでいて、保守的な考えの地盤が厚い。
● 世界的気運・流れを生み出すことができず、国際社会(日本)の中でゆっくりと地盤沈下が進んでいる。
● そこそこ豊かなので、大きな変革には立ち向かいたくない。 
という空気感です。

原因の一つとして、「ハマ」と「トリ」の話は納得感がありました。横浜のローカル企業である「ハマ」と支店にあたる「トリ」が絶妙のバランスで共存しており、双方とも対決する意識、競争して切磋琢磨すり意識が希薄なので、「ハマ」には危機感が生まれにくい、という説明です。

横浜に本拠を置く「ハマ」を代表する企業である有隣堂の松信社長がこのように言っています。

「今の横浜には”進取の気質”はないと思います。新しいものを受け入れるとは言っていますが、じつは排他的な街だと思う」(P109)

この指摘も思い当たります。横浜育ちには、横浜ブランドに誇りを持ち、「横浜愛」を持つ人が多いことはよく知られています。私も横浜市に住んで10年になり、生まれ育った故郷以上にこの街への愛着があります。

でも、「トリ」の属性を持つ私には、「ハマ」は、オープンに見えて閉鎖的だと感じることがあります。もっともっと発展して、もっともっと魅力的になってもいいポテンシャルのある街なのに、横浜は自分の魅力を十分には活かし切れていないなあ、と感じます。そして、「それはそれでいいんだ」と変化を望んでいない空気もこの街からは強く感じます。

本書は、実例を挙げて、これから横浜にはイノベーションが続々と起こる予兆がある、という希望の書でもあります。地盤沈下の進む日本で、次の時代で繁栄するためのポテンシャルを感じさせる街はそんなにありません。私は横浜が一層魅力的に変化していくことを大いに期待しています。

ただ一方で、横浜が騒がれて「俄か横浜ファンで溢れて欲しくないなア…」というワガママな気持ちも同時にあります。厄介なことを無理して引き受けたくない、というこの住民感情が、真の国際都市への脱皮を阻んでいる一因なのかもしれません。

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