『お金は教養で儲けなさい』を読む

本日の読書感想文は加谷珪一『お金は教養で儲けなさい』(朝日文庫2021)です。

物事の本質をつかむ力!

著者の加谷珪一氏(1969-)は、経済評論家・個人投資家です。東北大学工学部を卒業後、日経BPの記者を経て、野村証券グループで投資ファンドの運用をされていた経歴の持ち主です。(帯の略歴より)

理系出身で会社員の経歴もあり、物事の本質を見据えて、バランスが取れた主張をしている(所々毒もありますが……)という印象があり、著作を何冊か読んできました。

本書の帯も『物事の”本質”をつかむ力!』となっています。小手先で儲けるテクニックを解説したものではなく、社会学(第Ⅰ章)・経済学(第Ⅱ章)・数学(第Ⅲ章)・情報工学(第Ⅳ章)・哲学(第Ⅴ章)・歴史学(第Ⅵ章)の定評ある名著の内容を簡潔に学べるようになっています。

エッセンスを短時間で学びたい人に

各章で扱うテーマは、非常に有名なものだけに厳選されています。内容は枝葉を削ぎ落とし、エッセンスのみに集約されているので、それぞれをもっと深く詳しく学びたい場合は、自分で掘り下げる必要があります。ある程度素養のある人ならば、簡単に復習する用途に使うといいと思います。

私は、哲学の章が特に役立ちました。『儲ける』というメインテーマがあるので、資本主義の確立と密接に関係がある西洋哲学のポイントに絞って、思想の潮流が整理されています。

専門の哲学書は難解です。特有の用語や言い回しに慣れ、独特の思考方法を身に付ける必要があります。書かれている理論を理解する為に、その土台となっている理論や批判対象になっている理論を理解していることも求められます。土台となっている理論も、歴史的変容を受けています。読み進めるうちに混沌としてきて、思考がこんがらがっていきます。そこを簡潔に学んでエッセンスだけ知りたいというニーズに本書は応えます。

独力で立ち向かうにはなかなか手強い、唯物論と観念論、構造主義(パラダイム論を含む)、実存主義、記号論、プラグマティズム、を短時間でさらうには最適かもしれません。

数学と情報工学は上っ面だけでも学ぶべし

数学と情報工学は、私が意識的に遠ざけてきた分野です。今の時代、数学的思考は絶対に齧っておくべき分野だと思います。本書は入門書というか、さわりに触れるよいきっかけになる気がします。

数字が得意であることと、数学的思考が得意であることは、実は別の話です。いわゆる文科系の人にとっては意外に思うかもしれませんが、理工系の人の中には、「数学が非常に得意なのに、数字がまるでダメ」という人が結構多いのです。(P110)

という記述が出てきます、私は「数字はわりと得意だが、数学(的思考)が弱い」という傾向があります。現代は数学的思考が必須の時代と感じます。数字は普遍性と相性のいい道具です。証拠をベースに、テクノロジー思考で主張を展開した方が有利になりやすそうです。

”議論すること”についての私見

私は議論する場に身を置くのが嫌いで、ディベートに苦手意識があります。

私が10代だった1970~80年代は、左翼系知識人が力を持っていて、”言語力を駆使して難解な理論を操り、相手にマウントする”のが、「知の最先端」というような空気感がありました。

素朴な疑問や質問をする人を、「お前は浅薄で馬鹿だからわからないんだ」と、主張内容をまともに相手にせず、主張する人の人格や能力を否定して、斬り捨てることがまかり通っていました。私の議論嫌いは、そのトラウマがありそうです。

今でも、討論系のテレビ番組では、うすら笑いしながら「そういう質問をする人は頭が悪いんです」と斬り捨てる人がいた方が、シンプルに盛り上がっている雰囲気はあって、嫌な感じがあります。

健全な議論をする場で、他人の意見は聞かず、感情のぶつけ合いのような主張を繰り返し、お互いが罵り合いのような暴力的な空気感になるのは、何とも嫌なものです。

ただ、生意気で鼻持ちならない態度の論者が、他の論者からボコボコにやり込められている姿を観ると、スカッとする気持ちを抱くのも事実です。それに気付くと、自己嫌悪になります。

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