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『2020年6月30日にまたここで合おう 瀧本哲史伝説の東大講義』を読む

本日は、瀧本哲史『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』(星海社新書2020)の読書感想文です。

偶然の出会い

本書は、2012年6月30日、著者の瀧本哲史氏(1972/1/22-2019/8/10)が、東京大学伊藤謝恩ホールで行った講義の内容を一冊にまとめたものです。京都大学客員准教授、成功した投資家、事業家であり、『武器としての交渉思考』『武器としての決断思考』など話題になった著作がある瀧本氏は、病との格闘の末に2019年に47歳の若さで亡くなっています。

毎月29日は、BOOK-OFFの300円OFFの電子クーポンが配布されるので、仕事終わりに店に立ち寄るようにしています。毎回110~220円の格安本コーナーから目についた書籍を爆買いするのですが、本書もその一冊でした。書評か何かで、「本書には、瀧本氏の思想が凝縮されている」というような評を読み、うっすらと本書の存在を記憶していました。

勉強にはなるが、好きではない著者

私は以前、氏の『戦略がすべて』(新潮新書2015)を読んだことを記憶していました。

記述内容から、すこぶる頭のいい人であることは伺いしれたものの、「自分はエリート中のエリートなのであり、そんじょそこらの奴らとはモノが違うんだ」というような傲岸さを感じてしまいました。大所高所から教えを垂れるようなスタイルが私の肌には合わず、読後の印象がよくなかったという記憶が残っています。冷静に考えて、大変役に立つ内容だったと思うのですが、どうも負の印象の方が強烈に残ってしまっていました。

時を経て手に取った本書の印象も、ある意味『戦略がすべて』を読んだ時の読後感と似ていました。若い世代向けの講義なので、時に脱線や煽りを交えつつ、分析・論考の切れ味は鋭く、論理的で理解のし易い内容です。講義から10年以上経った2023年の今読むと「…」「?」という部分も、あるにはあるものの、「自分は硬軟を併せ持った、時代の最先端を行く論客なんだ」という絶対の自負が行間から漂ってきました。清々しいばかりの突き抜けっぷりです。

表現や世界観が些か武闘派寄りなのも、私の嗜好に合わない理由かもしれません。氏は、戦場で華々しく活躍する武将タイプではなく、後方で知略を凝らす参謀タイプと見受けられます。

公を意識していた著者

瀧本氏は、日本社会の変革、そのための土壌作りとしての人材育成に熱心でした。その姿勢に偽りはなく、正真正銘に真剣な取り組みだったのだろうと感じます。自分が果たすべき役目を、「この厳しい世の中で、有能な若者が闘い抜くための武器を配る」と表現していました。次代を担うリーダーの育成に従事したいという熱意は本物だったと思います。

社会変革というのは、ひとりの大きなカリスマをぶち上げるよりも、小さいリーダーをあちこちにたくさんつくって、その中で勝ち残った人が社会でも重要な役割を果たしていくというモデルのほうが、ぼくは、はるかに健全だと思っています。

P125 第五檄 人生は「3勝97敗」のゲームだ

という考え方には、共感します。

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