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『下流志向』を読む

本日は、内田樹『下流志向 学ばない子どもたち働かない若者たち』(講談社2007)の「第四章 質疑応答」を読んでの読書感想文です。

内田樹氏の鋭い筆

本書は、内田氏の数多い著作の中でも話題になった書だと思います。内田氏の書かれる書籍はこれまで頻繁に読んできたものの、私程度の知力では内田氏の思考の深みには、なかなかついていけません。ここは何となく自分の感じていることと違うなあ、これはちょっと違和感があるなあと反発を感じても、氏の広い守備範囲と深い知的教養、高い文章構成力で納得させられ、捻じ伏せられてしまうことが多いこともわかっていました。

本書には、内田氏の日本の人々や社会の動きに感じている思いがあまりオブラートに包まれず、ストレートに色濃く出ていると感じました。幾つかの文章には、私自身に銃口を向けられ、考えの底の浅さを糾弾されているような居心地の悪さも感じました。これまでの生きる態度への猛省と改心を迫られているような気がして、読み進めるのがキツいと感じた書でした。

師であることの条件

「第一章 学びからの逃走」「第二章 リスク社会からの弱者たち」「第三章 労働からの逃走」と流れてきて、第四章が質疑応答編になっています。各章に主張を補強するキーワードが登場し、それらを軸にして読み進めていくと理解出来るような工夫が施されています。そして、最後の第四章は対話形式になっています。その中で刺さり、考えさせられたことばに、

「師であることの条件」は「師を持っている」ことです。

P178

師弟関係で重要なのは、どれほどの技量があるとか、何を知っているとかいう数量的な問題ではないんです。師から伝統を継承し、自分の弟子にそれを伝授する。師の仕事というのは極論すると、それだけなんです。「先人から受け取って、後代に手渡す」だけで、誰でも師として機能し得る。

P180

があります。その例として、映画『スター・ウォーズ』のEpisode 1~3のメインテーマが『師弟関係』である、という論を展開していきます。

私には無条件で師と仰いでいるメンター(先達)がいるだろうか…… と考えてしまいました。自分に目をかけてくれたり、機会を与えてくれた恩人に対して、自分は無条件の尊敬の気持ちを持ってきませんでした。人の情や暖かさが理解できず、不遜で、不義理な人生を歩んでしまいました。「お前は、誰かを師と恃んで敬意を示し続けることを拒み、師の能力や師から得られる特典の損得感情を値踏みして利用しようとするタイプの人間ではないか?」と詰め寄られている気分を味わいました。そういう姿勢こそが、自分が人間的に足りていない決定的な所であり、年齢を重ねても人徳を養えない原因なのだろうと、どん底の気分に襲われました。

弱者が弱者であるのは孤立しているから

弱者が孤立する傾向に陥りがちなのは、現実だと思います。弱者は、弱者であるがために後回しにされ、分断されがちです。何かあった時に助けて貰えるコミュニティを確保できていない為に、弱者であり続けてしまうという皮肉な現象が固定化されています。「弱者」が具体的に何を指しているのかの定義には議論がありそうですが、孤立が深刻な問題であることは肌感覚でもわかります。

残念ながら、自分の暮らす社会は、個人が益々孤立化していく方向に進んでいます。強者は強者同士繋がり合うことを意識して、どんどん勢力を伸ばす一方、弱者は弱者同士で連帯する意識に乏しく、連帯・協力する方法論を持っていないことも少なくありません。

私自身も、コミュニティに溶け込む作法が未だにわからずにいます。この著作は2007年発売なので、当時から個人が孤立していくという現象は深刻になっていることは明白です。弱者が弱者という立ち位置から脱け出せない負のスパイラルを食い止めるのは、なかなかに難しそうです。

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