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『サリンジャー』を読む

本日は、加古川市の実家の書斎から持ち帰って、久々に再読した森川展男『サリンジャー』(中公新書1998)の読書感想文です。

謎に包まれた作家

20世紀を代表する小説家と言っても過言ではない、J.D.サリンジャー(Jerome David Salinger 1919/1/1-2010/1/27)が91歳で、静かにこの世を去ってから、今年ではや13年になります。本書が発売された1998年、サリンジャーはまだ健在で、ニューハンプシャー州のコー二ッシュという片田舎で生活しながら、頑なに沈黙を守り続けていた頃です。結局、本書が発売された後も、作家活動を再開することはなく、謎に包まれたまま、一生を終えました。

サリンジャーは、1965年、46歳の時に雑誌『ニューヨーカー』誌に発表した『一九二四年、ハプワース十六日』を最後に隠遁生活に入った後も、創作作業を続けていたと言われており、未発表作品が存在するという話があります。没後、未発表作品が発表されるのではないか、という噂が度々流れるものの、現在に至るまで新作発表のニュースは届いていません。

謎に包まれた人物像は、2019年に公開された映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』によって、多少は明らかにされました。

コンパクトにまとまった解説書

サリンジャー作品は世界的に人気があるので、解説書は世に無数に存在します。その中で、本書は新書版で読み易く、人物像にも焦点を当てながら、全ての作品を時系列で扱ってくれているので、サリンジャーの入門書としても便利な一冊だと感じています。

サリンジャーを称して、

『典型的なアメリカの小説家』
『文学家というよりも小説家』

という森川氏の考察に、強く同意します。

ライ麦畑でつかまえて

サリンジャーの代表作は、今も読者を増やし続けており、世界最大のベストセラー小説とも言われる『ライ麦畑でつかまえて Cather in the Rye』です。私は、最初は野崎孝訳で、最近になってからは、村上春樹訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(白水社2003)でも読みました。

何度も読んでいるものの、ストーリーや細部の描写はあまり記憶に残らないのに、心にぐいぐいと働きかけてくる不思議な作品です。何がどうと説明できないものの、強い印象を残す作品で、いかようにでも解釈できそうな余白もふんだんに用意されています。多くの人が、「自分だけの作品」として、この作品を位置付けている気がします。

この作品の商業的大成功が、サリンジャーの隠遁生活に大きな影響を与えていることは、否定できないでしょう。


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