『ライ麦畑の反逆児』を観る
本日は『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』の感想です。この映画、ずっと気にはかかっていたのですが、そろそろ上映終了が近そうだったので、時間を捻出し、やっと観ることが出来ました。
不朽の名作、『ライ麦畑でつかまえて』
J.D. サリンジャー(Jerome David Salinger、1919/1/1-2010/1/27)が1950年の秋に発表した長編小説「ライ麦畑でつかまえて ~The Catcher In The Rye」は、いまだに世界中で読まれ続けています。私が初めて読んだ時には、既に20代半ばにさしかかっていました。
この小説の熱狂的なファンは、主人公のホールデン・コールフィールドに自分自身を投影し、その独特の世界観にどっぷり浸ってしまいがちです。ジョン・レノンを射殺した犯人、マーク・チャップマンも本書の読者でした。不安やモヤモヤの中で生きる若者の心を惹き付ける傑作です。
謎多き作家、サリンジャー
サリンジャーは、1965年を最後に自作の作品発表を中止して、ニューハンプシャー州コーニッシュという片田舎での隠遁生活に入り、2010年に91歳で亡くなっています。
隠遁後は人前に出ることを極端に嫌い、インタビュー記事も殆ど残されていません。自叙伝も、その著述活動や人となりを綴ったエッセイ等も残していない為、その人間像や思考は謎に包まれたままです。
今回、この映画でサリンジャーがどのように描かれているのか、大変興味がありました。映画はサリンジャーが小説家として世に出て、隠遁生活に入るまでを描いています。予想していたよりも全然まともというか、抑制が効いた人物、という印象を受けました。
この映画で初めてサリンジャーを知った人ならば、彼を奇人・変人だとは感じないと思います。むしろ、前半の世に認知される前のサリンジャーは、小説家としての商業的成功を夢見る野心的な青年にしか見えません。
細部が凝っていて面白い
脚本・監督は本作が初監督作品となるダニー・ストロング(Daniel William Strong 1974/6/6-)、主演はニコラス・ホルト(Nicholas Hoult, 1989/12/7- )が務めています。ケネス・スラウェンスキーの評伝『サリンジャー 生涯91年の真実』(2012)を原作にしています。
所々、面白いと感じたシーンがありました。
● セントラルパーク内の池のそばで、酔っ払ったサリンジャーが暴漢に襲われるシーン。「ライ麦畑でつかまえて」の中に出てくる、ホールデンのおしゃべりがモチーフになっているのは明らかです。
● サリンジャーがカウチに寝転んで本を読みながら第二次世界大戦への米国参戦のラジオ放送を耳にするシーン。読んでいた本が、スコット・フィッツジェラルド(サリンジャーが敬愛していた作家だと言われている)の「グレート・ギャツビー」です。これも、演出でしょう。
サリンジャーは典型的なアメリカ人作家であり、作品には、アメリカ小説の特徴といわれるものが確実に詰め込まれています。私は20代半ばにアメリカ小説の世界観にかぶれて、集中的にアメリカ小説を読んだ時期があります。サリンジャーは「ライ麦畑でつかまえて ~The Catcher In The Rye」以外の短編にも面白い小説を多数残しています。
あの頃を思い出して、久しぶりにサリンジャーの小説を読み返してみたいなと感じています。
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