見出し画像

入門書の醍醐味

近所のBOOK-OFFで購入し、読み始めたばかりの内田樹『寝ながら学べる構造主義』(文春新書2002)のまえがきがとても面白くて、腹落ちしたので学びのノートを書き残します。

時間を持つ人間の強い味方 BOOK-OFF

もうかれこれ20年以上、BOOK-OFFには売買でお世話になっています。

引っ越し時や毎年年末には、自宅の本棚に入りきらなくなっている本や雑誌やCDを売却してきました。定期的なセールもチェックして、掘り出し物がないか漁ったりもします。出張時の空き時間にふらりと立ち寄り、100円(+税)で数冊買い、移動中の乗り物やホテルで読み切ったら、そのまま座席や部屋に置いてきたりしたこともありました。

今住んでいる地域にも徒歩圏内に店舗があります。毎月29日には500円以上購入で300円OFFのクーポンが使え、T-ポイント以外ならあらゆるポイントが使えるので、つい気軽に買ってしまいます。本書もそんな一冊でした。

「わかりやすい」と感じる内田樹氏の著書

私は、内田樹氏(1950/9/30)のファンで、これまでも氏の色々な著作を読んできました。内田氏の書くテーマに私が関心を抱くことが多いというのに加え、氏の文章が「わかりやすい」と感じていることがあります。文体、ことば遣い、論理展開、文節毎の呼吸の置き方が、自分の嗜好や読む癖と合うし、勉強になります。

本書のまえがきに、書かれています。

とりあえず、「分かりやすく」ということを目標にして講義ノートを書きました。ただし、「分かりやすい」というのは決して「簡単」という意味ではありません。「分かりやすい」と「簡単」は似ているようで違います。どちらかというと、私はむしろ「話を複雑にする」ことによって、「話を早く進める」という戦術を採用しています。(P14)

また、内田氏の著作は、まえがきとあとがきが(時に本編以上に)面白い、という印象を持っています。本書も私の期待以上に興奮させてくれます。

構造主義の四銃士

構造主義の源流は、『言語学の父』と言われるスイス人の言語学者、フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure 1857/11/26-1913/2/22)だと言われます。言語学に限定されていた構造主義の理説が発展・隆盛を迎えるのは、フランスで、ソシュールから第三世代にあたる重要な論客四人を指して、『構造主義の四銃士』の登場以降と呼ばれます。以下の四人です。

● ジャック・ラカン(Jacques-Marie-Émile Lacan 1901/4/13-1981/9/9)精神分析
● クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss 1908/11/28-2009/10/30)文化人類学
● ロラン・バルト(Roland Barthes 1915/11/12-1980/3/26)記号論
● ミシェル・フーコー(Michel Foucault 1926/10/15-1984/6/25)社会史

内田氏は、これら四銃士の特徴を、簡潔に説明してくれます。

レヴィ=ストロースは要するに「みんな仲良くしようね」と言っており、バルトは「ことばづかいで人は決まる」と言っており、ラカンは「大人になれよ」と言っており、フーコーは「私はバカが嫌いだ」と言っているのでした。(P200)

最初にイメージが固定されてしまう弊害はあるものの、取っ掛かりや最初の理解の一助となり、読み進めるのは楽になります。この記述を読んで、一気に構造主義が身近に引き寄せられたように思います。

まえがき、目から鱗

私が手にしたのは2016年4月発行の第40刷版で、初出は2002年6月です。元ネタは「ある市民講座で行った講義ノート」とあるので、本書が書かれたのは、今から20年ほど前の2000年代前後だろうと考えられます。ミレニアム時代が到来した頃の空気感がうっすらと漂っています。

”まえがき”(P7-15)だけで、大量の付箋を貼る事態となりました。ここだけを切り取っても、一篇のエッセイとして成立するくらいのクオリティを保っているのではないか、と脱帽しました。

本書は入門書のための、平易に書かれた構造主義の解説書です。
私は、「専門家のための」解説書や研究書はめったに買いません。
つまらないからです。
しかし、「入門者のための」解説書や研究書はよく読みます。
おもしろい本に出会う確率が高いからです。(P7)

この書き出しだけで、引き込まれてしまいます。

すぐれた入門書

何か新しいジャンルのものを学ぼうとする時の、入門書のチョイスはとても重要です。内田氏はこう書いています。

敷居の高さの違いは、「専門家のための書き物」は「知っていること」を軸に構成されているのに対し、「入門者のための書き物」が「知らないこと」を軸に編成されていることに由来する、と私は考えます。(P8)
よい入門書は、まず最初に「私たちは何を知らないのか」を問います。「私たちはなぜそのことを知らないままで今日まで済ませてこられたのか」を問います。(P9)

そして、私たちが知らない理由、無知な理由は知識の欠如ではなく、「知りたくない」「知らずに済ませたい」という意識的、無意識的な努力の結果である、とします。「なぜ知らずに済ませたいと思ってしまうのか?」という問いを考えることで、より深い理解に繋がっていくとします。

知性がみずからに課すいちばん大切な仕事は、実は、「答えを出すこと」ではなく、「重要な問いの下にアンダーラインを引くこと」なのです。(P11)

人間の「知っていること」には、その人の個人的な嗜好や偏向が含まれています。「知らないこと」は、その人が対峙することを必死に避けてきた、しかし重要な問いが潜んでいると考えられます。

内田氏は、構造主義の入門解説書である本書を、自分自身が「知らないこと」を調べながら、ほやほやの理解のままに書いていったので、入門者に適した案内書になっている可能性がある、と言っています。

これは『地球の歩き方』を読むときには、現地に三代前から住んでいた人の情報よりも、さきほどそこを旅行してきたばかりの人の情報のほうが、旅行者にとっては「使い勝手がよい」というのと同じです。(P13)

このまえがきを読んだだけで、まだ私が実体のよくわかっていない構造主義を学ぶためのよい入門書に違いない、と思います。

この記事が参加している募集

#推薦図書

42,581件

#読書感想文

189,685件

サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。