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佐藤愛子氏に学ぶ幸せの極意

今日の松本は寒い一日でした。三度目の信州の冬を受けて立たねばなりませんから、体力は大切です。明日は多少気温の上昇があるようですが、暖かい服装をして、身体が温まる食事を取って、正攻法で挑むことにします。本日は、走り読みしている、佐藤愛子『それでもこの世は悪くなかった』(文春新書2017)の短いあとがきから貰った爽やかな気持ちを忘れないように、記事に残しておきます。

歴戦の勇者、作家・佐藤愛子

父に明治・大正期に活躍した作家の佐藤紅緑(1874/7/6-1949/6/3)、兄に詩人・作詞家のサトウ・ハチロー(1903/5/23-1973/11/13)、劇作家・大垣肇(1910/2/7-1979/5/3)を持つ佐藤愛子氏(1923/11/5-)は、直木賞、女流文学賞、菊池寛賞等、数々の文学賞の受賞歴がある、御年100歳の大御所作家です。本書は、氏が93歳だった2017年に出版された初の『語りおろし人生論』で、その鮮烈な内容が当時結構話題になったと記憶しています。

本書を読む限り、驚くばかりの破天荒な人生を歩んだ人で、

いやあ、私のように生きるのは、止めた方がいいんです。とんでもない人生になります。

P3

というような表現が随所に出てきます。話を盛っている感じはせず、悲惨な体験をユーモラスな筆致で読ませてくれる良書だと思います。

短いあとがきに受けた感銘

この時期の定番曲、ワム!『ラスト・クリスマス』(1984)を、Spotifyからリピートして聴きながら、第1章 私をつくった言葉、第2章 幸福とは何か、第3章 死とは何か、と楽しく読み進め、最も感銘を受けたのが、最後の短いあとがきです。3頁もない短い章ですが、簡潔な文体で心に刺さりました。

生きていれば、損をしたり傷ついたりするかもしれません。けれど、やれ損したとか、やれ傷つけられたとか、そんな風に考える前に、私は先へ進んでいく。だから、恨みつらみが育つヒマがないんですよ。

P181

と豪快です。あれこれ損得を計算してうじうじしがちな私は、一刀両断されたように感じて、グウの音も出ませんでした。暇があったり、退屈したりすると、変な感情が沸き上がってきて、余計なことを考えてしまうものです。痛みを感じないくらい忙しくして、颯爽と駆け抜けていく覚悟を決めた方が、「どうしたら幸せになれるんだろう」とくよくよ思い悩むより、遥かに有益だということを思い出させてくれます。

また、氏が好きだというフランスの哲学者、アラン(Alain, Émile-Auguste Chartier 1868/3/3-1951/6/2)の名著『幸福論』から引用している文章も大変気に入りました。

完全な意味で幸福な人とは、着物を投げ捨てるように別の幸福を投げ捨てる人だ。だが、彼は自分の真の宝物だけは決して捨てない。

P182

何らかの不安、何らかの情念、何らかの苦しみがなくては、幸福というものは生まれてこないのだ。

P182

私には、このまま実践するのは大変に難しい生き方ですが、澱んでいた気持ちを明るくさせてくれる力強い文章に、元気と勇気を貰いました。


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