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『捨てない生きかた』を読む

本日は、五木寛之『捨てない生きかた』(マガジンハウス新書2022)の読書感想文です。読み終えた今、「悶々としていて調子が優れない時には、人生の達人の紡ぐことばに触れるのが最適だ」と再認識しました。

『Together & Alone』『Keep on』

五木寛之氏(1932/9/30-)は今年90歳を迎える今も、一線の作家として執筆活動を継続されているレジェンドです。私のnoteでは、過去に何度も氏の作品を取り上げてきました。「下山の思想」「学生期・家住期・林住期・遊行期」などの考え方にも、大きな影響を受けました。私にとって五木氏は作品を通じて関係を維持し、遠くから仰ぎ見ているだけの人ですが、勝手に深い親近感と信頼を寄せています。

好きな人とはあまり深く会わないようにする。この人とは気が合いそうだとか、この人は尊敬できるなと思ったときには、距離をおいて、こちらから進んで接近しようとはしません。ぼくがいつもそうしているのは、油のように濃密なつき合いというものは、やはり、どこかで変わるからです。(P52)
ぼくはかねがね人とは長く契れ、と自分自身に言っています。「契」は契約の契です。契るというのはつき合うという意味です。人とは浅く、そして長くつき合うのがよい、という考えかたで人と接しています。(P91)

という五木氏の流儀に同意します。本書内で引用されている、スペインの思想家、オルテガ・イ・ガセットが残したことば「Together & Alone」、ジャズ・ドラマー、ジーン・クルーパの語った「Keep on」ということばにも通じていて、素敵なスタンスです。

家畜が逃げ出さないように縛り付けておく縄を意味する「絆」ということばが、社会で好感を持って語られていることへの複雑な感情にも共感します。

捨てない生活

五木氏が、断捨離が良しとされる時代に、あえてモノを捨てない生活を貫いていることは意外であるとともに、とても興味深く感じました。

私もモノや人間関係を捨てられない性分だと思っています。モノは簡単に捨てられません。自分の過去の記憶を呼び起こしてくれるモノは手許に置いておいてもいいのかもしれません。

ただ、人間関係に関しては、50歳を超えてから意識的に断捨離を意識し、できるだけ身軽になるように心掛けてきました。ヒトは絶対に変わるし、変わることに否定的な気持ちになってしまう自分が嫌なのです。ヒトが変わるのは必然で、その無意識の決断に他人が意見するのはお門違いだと思います。

とはいえ積極的に関係を切るのではなく、流れに身を任せています。自分が繋がっていたいと考える人とはメンテナンスの努力をしていれば、まあ何とかなります。こちらから何も行動を起こさなければ、自然に身軽になっていき、フェードアウトしていきます。かつての仕事がらみで出来た人間関係は、会社を辞めたら、想定通りすっぱりなくなりました。

モノ言わぬモノを信頼する

人生百年時代となれば、孤独との付き合い方が重要です。寂しさに一人で耐える機会が増えるので、心を守る為にはモノの役割は重要です。

孤独である私たちは何を友として生きればいいのでしょうか。それはやはり、自分自身の「記憶」です。(P42)

モノは安定の象徴であり、表面が薄汚れたり、傷んだりしても、本質は宿したままです。そこにモノに頼る安心感があります。寂しい日常生活しか持たない人間は、これまでに積み上げてきた数々の「記憶」とともに生きるのが、よいのでしょう。

幸いにして私には、これまでに蓄えてきた数多くの記憶があります。本、音楽、お酒、旅などとも友情関係を結んでいます。この貴重な財産を抱いて、欲を掻かない毎日を送っていきたいと思います。

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