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『空き家を活かす』を読む

今回の読書感想文は、松村秀一『空き家を活かす』です。人口減少に転じた日本で、これから問題が顕在化するであろう各地の老朽化建物、空き家=空間資源のリノベーションについて、あらゆる事例が解説されていて大変面白い内容でした。

本書は昨年秋に購入して、半分くらい読み進めたところで中断して、そのまま忘れたままになっていました。最近部屋の隅から発掘して再び読み始めたら、面白くてその日のうちに読み終わりました。

本書の中に、日本のリノベーション業界で、ユニークな仕事を勢力的にされている人には、著者の松村氏と同じ1968年生まれの人が目立つという話が出て来ます。私も1968年生まれなので、著者の記述内容を興味深く読みました。同世代がどのような影響を受けて、大人になっていったか、その時代、その時代の出来事を交えての著述がとても巧みだったからです。

高度経済成長真っ只中からの修正が始まり、日本社会の価値観が大きく変容し始めた70年代を少年として過ごし、青年期に差し掛かる1986年頃からは、バブル景気が到来して、社会に充満する異様な熱感を肌で感じながら価値観を育んでいます。

ところが、社会に出る頃には、バブル景気に踊ったイケイケの時代は崩壊し、その後の日本経済の長期凋落、景気低迷の続く時代を、当事者としてド真ん中で経験しています。

1995年に起こった阪神大震災やオウム真理教事件といった出来事も、私達の世代の社会への関わり方、未来に対する期待感などに影響を与えているように思います。

自分の世代を乱暴に総括すると「マクロ的にはこれから先いい時代は来ないけど、その中でどう折り合ってマシにやっていくか」ということを考えている世代かなと思います。かなり現実的、刹那的です。

本書の内容からは少々逸脱してしまいましたが、人口減少や空き家の増加を空間資源の増加とポジティブに考えて、著者が言う「遊び」の感覚を失わずに、リノベーションの可能性を広げることは、大量の空き家や老朽化建物を抱える日本の活性化には、とても面白いアプローチであると感じます。

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