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『つばさよつばさ』を読む

本日は、浅田次郎『つばさよつばさ』(集英社文庫2015)の読書感想文です。


再出発は、旅のエッセイから

昨日は、自らの不注意で記事投稿を飛ばしてしまいましたので、本日から毎日noteの再出発になります。

本日の読書感想文に選んだ『つばさよつばさ』は、『地下鉄に乗って』『鉄道員』などの作品で知られるベストセラー作家、浅田次郎(1951/12/13‐)氏が、2002年10月からJALの機内誌に連載していた旅のエッセイ集が単行本化されたものです。書かれた時代と今では時代状況や価値観も変化していて、随所に違和感のある考証も含まれる(という問題を承知でそのままにした、と浅田氏は書いています)ものの、同時代を同じように世界中を(主に仕事ではあったが)旅していた者として、興味深く読みことが出来ました。

重厚な小説作品に比べると、肩肘張らず、気軽にさらっと読める軽妙な書となっています。浅田氏が『「羇旅の運命」を背負った』というほど、頻繁に旅をする人だとは思っていませんでしたから、新鮮でした。

考えを拝借

浅田氏は、1年の3分の1は旅行していると書かれています。

一人前の作家になって、自由気ままな執筆スタイルが許されたなら、必ず旅先作家になろうと心に決めていた。

旅先作家(P15)

ただ売れっ子の職業作家の実情は思っていた理想の姿とは全然違うようで、純粋なプライベートの旅行は殆どなく、取材旅行だったり、講演会やサイン会や雑誌取材やグラビア撮影だったりで、旅先で原稿を書いているという意味での旅先作家だと自嘲気味に書かれています。

浅田氏は膨大な読書による博識に加え、自らの実践経験で得た知識や考察を重視される方だとお見受けしました。本書の中で披露されている豆知識やユニークな考察が非常に面白かったです。

たとえば、「一家団欒」では、冒頭の

南アフリカの先住民たちは、ヨーロッパからやってきた白人たちを「四角い家に住む人」と呼んだそうである。

一家団欒(P76)

という書き出しから展開され、

人間の住む家の基本は、円形なのではなかろうかと思った
(中略)
プライバシィの要求、隔壁の出現、四角い家、という住居の進化過程は、裏を返せば家族意識の退行を意味しているのではあるまいか。もしアフリカの先住民だちがそう考えているのなら、「四角い家に住む人」は進歩した人々ではなく、退行した哀れな人々ということになる。

一家団欒(P77‐78)

という考察に至るのは、鮮やかです。中国にも円居の伝統があり、団欒の「欒(=栴檀)」という字が充てられている点からも膨らませています。本来、家とは円形であるべきなのではないかという発想は、私には全くなかったもので、大変興味深く感じました。

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