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『デジタル・ファシズム』を読む

本日は、堤未果『デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える』(NHK出版新書2021)の読書感想文です。

気鋭のジャーナリストのヒット本を読む

かなり売れている本のようです。よく立ち寄る松本市内の本屋でも目立つ場所に陳列されていたので、購入しました。著者の堤未果氏は、硬派の国際ジャーナリスト・著作家で、著作も多数ありますが、著書を読んだのは今回が初めてでした。

親族には有名人が多く、父は放送ジャーナリストのばばこういち氏、母は詩人の堤江実氏、弟はピクサーなどで活躍しているアニメクリエイターの堤大介氏、夫は参議院議員の川田龍平氏です。

反竹中平蔵、反GAFA

本書は、マスコミ等で話題になった裏でひっそりと進められており、実は日本を破滅に追いやる可能性を秘めている根深い問題を採り上げて、危険性を解説する労作です。検証の対象は、第Ⅰ部=政府、第Ⅱ部=マネー、第Ⅲ部=教育となっています。

プロローグで、

お金の流れと人事と歴史の三つを見れば、今本当に起きていることの、全体像が浮かび上がってくる。

P5

と書いています。デジタルとファシズムの相性がいいことは、うっすら想像できていましたが、堤氏の言語化によって、よりクリアに危険性を理解しました。本書な中で度々引用している「今だけ金だけ自分だけ」という価値観が支配的になってしまった社会では、発達したテクノロジーが権力を握る少数の者によって、他の人間支配に悪用されることは、ほぼ確実なように思えてきます。

第Ⅰ部の政府編はかなり面白い考察です。第1章が「デジタル庁」、第2章が「スーパーシティ」、第3章が「デジタル政府」です。堤氏は相当な文章力があり、説得力があります。最初に事象のFactsを提示してから論考をはじめる体裁なので、論旨を追い易く、迷子になりにくい構造になるよう工夫されています。

堤氏は、新自由主義には懐疑的・批判的で、竹中平蔵氏が相当にお嫌いのようです。明白に批判を書いている訳ではないものの、度々氏の名前を引用し、利権との関係を匂わせる書きぶりが顕著です。

GAFAの危険性・排他性を指摘する本は数多く、本書もその系統にあります。ただ、GAFAの支配する岩盤体制をどう崩すのか、データと引き換えに享受している便利さを手放させるのか、という点になると、特効薬はありません。著者を含め、GAFA支配の問題についての指摘は鋭さと広がりを増す一方ですが、彼らのやりたい放題を抑止するような有効な代替案はまだ確立していないのが実情です。

問いを立てるきっかけに

本書では、日本を巡る問題が網羅的に扱われています。この本だけで指摘されているすべての問題を深く理解したと思うのは危険ではありますが、頭の片隅に残しておいて、考えるきっかけにすれには最適な本だったという気はします。その意味で、本書は良質だと感じました。

思考停止で流れに従って生きていると、利便性・快適性に胡麻化されて大切なものが蝕まれていきます。そうわかってはいるものの、この大きな流れは簡単には止められない気も、一方ではしています。

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