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『危ない読書』を読む

本日は、佐藤優『危ない読書』(SB新書 2021)の読書感想文です。この本も最近まで積ん読したままだったのですが、ひとたび読み始めると面白くて一気に読み通しました。

最高の知性の持ち主

私は、著者の佐藤優氏(1960/1/18-)は、現代日本で知識人の最高峰に位置する一人だと考えています。氏が著作の中で披露する膨大な知識量と目配りしている関心の幅、識見の奥行きと深さは驚くばかりで、その洞察力と分析力を惜し気もなく、平易な文章で解説してくれます。

難解な専門的内容から、気軽に読める雑誌のコラムや新書に至るまで、何年も超人的な仕事量をこなし続けています。自分が何か未知なものを知りたい時や、もう一段深い知識を得たい時には、氏の著作に手を出すことが多いです。氏の文章は、リズムが良くて、論旨を追いかけやすいので、大変重宝しています。

危険な書の最適な解説書

本書で取り上げられている著者と著作は、強烈なものばかりです。これらをチョイスして分析を加える仕事は、佐藤氏にしかできないのではないかと思います。

第1章 独裁者の哲学で取り上げられるのは、ヒトラー『わが闘争』、スターリン『レーニン主義の基礎』、毛沢東『書物主義に反対する』、金正恩『金正恩著作集』、文部省教学局『国体の本義』と、物凄い内容です。

ドナルド・トランプ、金正恩、カルロス・ゴーン、堀江貴文、といった毀誉褒貶が激しく、影響力が絶大で個性溢れる人物への評価(概ね好意的)は的を得ていて、興味深く読ませて貰いました。

膨大な仕事をこなせる人の枯れない知識

佐藤氏は、途轍もない仕事量をこなしている人で、次から次へと著作が出るので、その執筆活動の全てはフォローしきれません。その枯れない知識量と飽くなき探究心は、日々の膨大な情報インプットから生まれるのでしょうか。

長くインテリジェンスという仕事に従事し、国際政治の裏側や政治力学原理に通じているせいか、徹底的にリアリストで、その主張が浮世離れしていかないのが、素晴らしいと思う理由です。

本書は、ただの解説書ではなく、氏の価値観や主張もところどころに顔を出します。印象に残った書きぶりを書き抜いておきます。

「日本の製造業がグローバリゼーションが進むなかで生き残るためには、結局のところ、ゴーン型の経営改革しか選択肢がない」
P131
トランプが原因でアメリカが変になったわけではなく、アメリカが変になった結果としてトランプが出てきたと考えるべきなのだ。
P145
そもそも「自己実現(やりたいことをやること)」ができるのは、資本主義社会のなかでは資本家だけである。資本の論理では労働者は自己実現できない。
P170
掟は一見すると非合理的だ。しかし掟はいいか悪いかといった話とは関係なく、価値中立的なものである。そういったものが実在し、それによって機能している組織がある。その事実を知ることが大切なのだ。
P203


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