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魅惑のカクテル⑥:欠落を感じた夜に飲むブルームーン

魅惑のカクテルシリーズ第6弾は、そこまでメジャーではないものの、魅力的なカクテル、ブルームーンです。私には思い出深いカクテルで、語りたいことが非常に多くあります。


すみれ色のカクテル

ブルームーンは、ジンベースのショートカクテルで、パルフェタムールというフランス起源の甘みが強いリキュールを使います。独特の香りを放つニオイスミレで香り付けがされており、鮮やかな紫色あるいは青紫色を発するのが特徴です。

レシピは以下の通りで、これらをシェイクして出来上がったブルームーンは、すみれ色と称するのがふさわしい薄い紫色に仕上がります。パルフェタムールが効き過ぎると癖の強い味になるので、美味しく作るのはかなり難しい筈です。アルコール度数も結構高いです。

ドライジン 30ml
バイオレット・リキュール(パルフェタムール) 15ml
レモンジュース  15ml

レモンジュースを抜き、ステアで作ると”ユニオンジャック”というカクテルになります。味の調節がブルームーン以上に難しく、かつ味も微妙です。

歴史が古く、謎に包まれた一杯

このカクテルの歴史は意外と古く、1900年代前半にはもうアメリカで飲まれていたといわれます。ブルームーンとは、暦の関係で数年に一度、1か月に2回満月が見られる珍しい現象をさすことばです。「ありえない出来事」のことを、英語でonce in a blue moonと表現したりします。

この為、ブルームーンのカクテル言葉は、「めったに起こらない出来事」や「幸せの瞬間」となっています。また、パルフェタムールとは、フランス語の「Parfait Amour」/英語の「Perferct Love」/日本語の「完全な愛」の意味となります。これだけの知識だと、結構幸福感に溢れたロマンチックなイメージの広がるカクテルです。

ところが、ブルームーンは、告白やプロポーズに適したカクテルではありません。別のカクテル言葉として、「君には相談できない」「その告白は受け入れられない」という意味があり、はっきりと「お断り」を意味する際のカクテルなのだそうです。

なので、もしも口説こうとしている意中の異性がこのカクテルをオーダーしたら、残念ですが素直に身を引いた方が良さそうです。

ブルームーンの思い出①:プリンス

このカクテルとの思い出の一つは、敬愛するアーティスト、プリンスです。2016年4月にプリンスが急逝した時、私はひどいショックを受けました。彼を偲んで、しばらくは彼のシンボルカラーだった紫の目映いこのカクテルを飲み続けました。

今でも彼の亡くなった4月21日前後には、供養を込めてこのカクテルを何杯も煽ります。

ブルームーンの思い出②:雨とカーズの『ドライブ』

理由は自分でもよくわからないのですが、雨の夜になると、無性にブルームーンが飲みたくなる時があります。趣味で書いたバー小説にも、ブルームーンを登場させました。

雨の夜、ブルームーンと共に思い出すのが、雨がテーマではないカーズ の『ドライブ』という曲です。プロモーションビデオ(PV)で雨が窓を伝うイメージが強烈に残っているからかもしれません。

『ドライブ』でボーカルを務めたベンジャミン・オールは2000年に膵臓がんで、バンドの顔であるボーカルのリック・オケイセックも2019年9月に亡くなりました。『ドライブ』のPVに出演しているポーリーナ・ポリスコワ (Paulina Porizkova)はリック・オケイセックの3番目の妻です。

バンドの核だった二人がいなくなってしまった以上、あの軽妙なカーズサウンドがもうライブで聞けないのはなんとも寂しい気分です。

ブルームーンの思い出③:デニス・デ・ヤング『デザート・ムーン』

ブルームーンとは、”ムーン”くらいしか共通点はないものの、デニス・デ・ヤングの『デザート・ムーン』という曲とも不思議な縁があります。

私が高校生だった1984年に、人気ロックバンド、スティックスのボーカル、デニス・デ・ヤングが初のソロアルバムから放った知る人ぞ知るスマッシュヒット曲です。

当時席捲していた大映テレビ制作のフジTVドラマ『青い瞳の聖ライフ』の主題歌として、この曲のカバーが作られ、谷山浩子さんが歌っています。

今は閉店してしまった横浜駅西口のバーで、デニス・デ・ヤングのレコードを聴きながらブルームーンを飲んだのは今となってはいい思い出です。

私にとってのブルームーンは、何か「欠落」を感じて、寂しさを感じた時に飲みたくなるカクテルのようです。

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