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あの人が教えてくれるもの④:大橋巨泉

『あの人が教えてくれるもの』の第4回は、テレビタレント・実業家の大橋巨泉さんの歩んだ【前半生】【後半生】から、自分らしい人生の駆け抜け方を改めて考えてみます。

【前半生】テレビ草創期から活躍し、首領的存在に

大橋巨泉(1934/3/22-2016/7/12)さんは、私が物心ついた幼少期から学生までの間、数々の人気テレビ番組の司会を務め、最も影響力を発揮していた人だろうと思います。

1934年(昭和9年)東京生まれ。生家は両国でカメラの部品製造・販売を手掛ける大橋商店。太平洋戦争中は、疎開先の千葉県で育っています。少年から青年へ成長していく多感な過程で、敗戦を経験しています。国家が180度転換した経験によって、「権威」一切を信じないという価値観が醸成されたといいます。英語を学び、ジャズに夢中になり、進学した早稲田大学は中退しています。

早稲田大学中退者には、盟友でもある永六輔(同じ2016年7月に亡くなっています)さん、寺山修司さん、タモリさん、ラサール・石井さん、石田純一さん、小室哲哉さん、上田晋也さん、堺雅人さんなど錚々たる面々がおり、「早稲田大学を中退したタレントは出世する」という都市伝説まであるようですが、巨泉さんはその先駆者と言えそうです。

テレビが草創期を経て世間に定着・浸透し始めた1960年代に、ジャズ評論家・放送作家からタレント業に進出し、深夜の人気情報番組『11PM』の司会で人気を確立します。野球・競馬・ゴルフ・麻雀などあらゆる遊びに精通し、評論活動にも才能を発揮しました。

番組司会者が、共演者を呼び捨てにしたり、馴れ馴れしく下の名前で呼んだりするスタイルは、巨泉さんが確立したとも言われます。ビートたけしさん、タモリさん、明石家さんまさんのお笑いビッグスリーも当然呼び捨て。島田紳助さん、和田アキ子さんなど大物タレントにも巨泉さんは完全に上から目線で接していました。

私は、こういった傲岸不遜に見える振る舞いや言動、上から目線で豊富な知識をひけらかす態度を取る人は、昔も今も好きになれません。しかし、巨泉さんが、薄っぺらい嫌味なだけの人であれば、長年テレビ界のトップに君臨することなどできなかった筈です。

世間からある程度反感を持たれることは想定内で、自分の自然体で過ごすことを優先し、腕力と影響力と人を見る目と繊細な気配りの力で黙らせていたのでしょう。テレビでは、世の中がイメージする大橋巨泉像を演じていたのだろうと思います。

数々のエピソードや名言

藤子不二雄Aの人気漫画「笑ゥせぇるすまん」の主人公、喪黒福造のモデルは巨泉さんだそうです。

野暮なことを嫌い、名言らしいことを吐き散らかすのを好まないタイプかもしれませんが、含蓄のあることばを残しています。

● 集団の真ん中にいたら、絶対にダメだ。どうせなら、ビリを走れ。時代の風が逆から吹いたら、自分がトップに立てる
● 戦争は爺さんが決めて、おっさんが命令して、若者が死ぬ
● 人に助言を与えることにも用心深くしよう。賢い人はそれを必要としないし、愚かな人は心に留めないだろうから
● 勝ち組、金持ち、インテリはテレビを見ない。負け組、貧乏人、程度の低い人がテレビを見ており、芸能界の裏話を共有した気になって満足しているんです

【後半生】セミリタイア生活を実践した達人

巨泉さんは1990年、56歳の時に『セミリタリア』を宣言し、テレビのレギュラー番組を降板して、悠々自適の生活に入ります。理由は、「好きな時にゴルフがしたいから」という人を食った理由です。学ぶべきはその決断を実現するだけの周到な準備を長年かけてやってきたことです。

当時の巨泉さんは、月曜日と金曜日には、自身が出演する番組『11PM』『クイズダービー』『世界まるごとHOWマッチ』『巨泉のこんなモノいらない!?』の撮影に参加するものの、火・水・木はずっと大好きなゴルフをやっていたそうです。土日は当然オフでしょう。既に実働週二日の生活をしていて、庶民一般からみればなんとも羨ましい状況だった筈です。

そのゴルフは、完全プライベートもあれば、仕事もある。悪天候の中でやる場合もあり、「これでは好きなだけゴルフをしているとは言えない」と不満に思ったそうです。唖然です。

「セミリタイア」は、若い頃から蓄財を始めて仕事が好調のうちに辞め、悠々自適に過ごしながらも完全には引退せず、余裕を持って好きな仕事を選びながら働くという意味合いのことばとして完全に定着しています。その先駆者として道筋を示した一人は、巨泉さんだろうと思います。

セミリタイア宣言から23年後の2013年に出した『「第二の人生」これが正解!』という本に、色々なノウハウや思いが書かれています。

学ぶべき「後半生」の楽しみ方

実業の世界でも成功した大富豪で、趣味人で、親しい仲間に慕われた巨泉さんのセミリタイア生活を私ごときが真似することなど到底できません。それでも、巨泉さんの人生をとことん楽しむエッセンスは、学び取りたいと思っています。

巨泉さんは、自分が好きでかつ得意な分野に周囲の人を引き込んで、自分の決めた有利なルールの中で着実にポイントを稼ぎ続けるスタイルを貫いた人のように思います。

常日頃から幅広く勉強する時間を確保し、人付き合いを大切にして、相手にもポイントを取らせてきたからこそそのような芸当が可能だったのでしょう。「余白」を持てる人生って豊かだなあと思います。




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