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『老人支配国家日本の危機』を読む

本日は、エマニュエル・トッド『老人支配国家日本の危機』(文春新書2021)の読書感想文です。

親日家の提言

フランスの人口統計学者・歴史学者・人類学者のエマニュエル・トッド氏(Emmanuel Todd, 1951/5/16-)には、多くの著作があり、その発言が注目されている論客です。

人口動態を根拠にした鋭い社会分析に定評があり、ソ連の崩壊やトランプ大統領の当選を的中させてきました。私も数年前にその名を知ってから、何冊か書籍を読んできました。EUの絶対王者として我が物顔に振舞うドイツに警鐘を鳴らす『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』(文春新書2015)は、気骨に溢れた力作だったと記憶しています。

この『老人支配国家日本の危機』は、過去にトッド氏が雑誌などに寄稿した論文やエッセイを集めて編集されたものです。トッド氏は、自他共に認める親日家であり、日本に対して厳しくも建設的な提言を行ってきました。

磯田道史xE.トッド(第10章)

本書の中で、一番興味深かった論稿が、日本史研究者の磯田道史氏との対談『「直系家族病」としての少子化』です。

磯田氏は、日本の経済成長率が低迷を続ける理由の一つを労働生産性の低さにある、とみなしています。そして、その労働生産性が上がらない原因に、日本の直系家族主義が影響している可能性を指摘しています。

トッド氏は、知識や技術の伝承に長けた直系家族の長所も強調しつつ、磯田氏の指摘に興味を示し、直系家族主義の陥り易い欠点として、

直系家族がいったん完全に確立してしまうと、今度は社会全体が継続性だけを重視するようになり、”化石”化の傾向に陥りがちなのです。

P212

という指摘をします。

その後も話が展開していき、純粋な直系家族主義ではない薩摩藩の特殊性が説明されます。秩序を重んじる純粋家族主義が支配する社会を破壊する原動力になったのではないかという説は興味深いです。

人口減少が日本の最大問題

トッド氏は、幾つかの章で、日本の最大の問題は人口減少と少子化だという指摘をしています。日本が移民に否定的なのは、異民族に排他的な訳ではなくて、秩序を守ろうとする完璧主義が邪魔するからだという分析には思い当たるフシがあります。

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