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『君が手にするはずだった黄金について』を読む

昨日は、K-Arena横浜で行われたコンサートの終了後に、調子に乗って飲み歩いてしまい、記事の毎日投稿を飛ばしてしまいました。その観戦記は後日まとめるとして、本日は小川哲『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社2023)の読書感想文です。


リアリティのある物語

本書の著者、小川哲氏(1986/12/25-)は、東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍中の2015年、処女作の『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、華々しい作家デビューを飾りました。2023年1月には、『地図と拳』が第168回直木賞に選ばれています。

本書は、直木賞受賞後の第一作で、2019年から2022年に小説新潮で発表された5作品(『プロローグ』『三月十日』『小説家の鏡』『君が手にするはずだった黄金について』『受賞エッセイ』)に、書き下ろし作(『偽物』)を加えた短編集になっています。

いずれの作品も、作者自身を投影した人物が語り部となっており、妙にリアリティがあり、事実と見紛うかのような錯覚を覚えます。朝の情報番組『王様のブランチ』の文芸ランキングで1位と紹介されていて気になったので購入し、一気に読了しました。久々に読んだ小説でした。

承認欲求が満たされない人

どの作品もハズレなく、面白いです。『君が手にするはずだった黄金について』『偽物』には、実際にいそうな"厄介な"人物(高校時代の同級生の片桐、漫画家のババリュージ)が登場します。何者かでありたい、という強烈な承認欲求が肥大してしまった為に、虚構の自分の姿を作り出し、破滅していく人物として描かれています。軽蔑の対象になる人物でありながら、何となく切ない気持ちになります。本の帯を書いている朝井リョウ氏や、麻布競馬場氏が扱うテーマとも親近感があります。時代の空気を捉えている作品だなあ、という印象を持ちました。

また、随所に著者の生の声ではないか、と思われるような記述が見られるのも魅力です。特に『プロローグ』は、著者自身がデビュー前を振り返って独白しているのではないか、と錯覚させる筆致で、計算され尽くしたフィクションとは感じさせない構成が好印象でした。

記憶は改竄されるもの

人の記憶があてにならないこと、自分にとって都合の悪い事実は記憶から消去されること、を扱う『三月十日』も印象に残る作品です。著者は、ミステリーの名手でもあるようなので、別の作品も読んでみたいと思います。

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