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『星の王子さま』を読む

本日は、約30年ぶりの再読となるサン=テグジュペリ『星の王子さま Le Petit Prince』(河野万里子訳 新潮文庫2006)の読書感想文です。

『星の王子さま』と訳したのが秀逸

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(Antoine de Saint-Exupéry 1900/6/29-1944/7/31)が、出版社からの「クリスマスのために子どもむけの話を書いて欲しい」という依頼を受けて1943年に発表した本作品は、今も世界中で読み継がれている大ベストセラーです。一説には、「聖書の次によく読まれている」とも言われています。

金曜日の夜に松本の市街地でひとり飲みする前に、いつもの書店に立ち寄って購入しました。『星の王子さま』は、翻訳出版権が消失した2005年1月以降、20人以上の訳者による翻訳作品、十数社からの出版があると言われています。河野万里子氏訳の新潮文庫版を選んだのは偶然です。

原題 Le Petit Prince、英語版 The Little Princeに、『星の王子さま』という邦題をあてたのは、1953年初出版の翻訳を担当したフランス文学者の内藤濯(1883/7/7-1977/9/19)氏であり、傑作とされます。確かに、今となってはこのタイトル以外にあり得ないと感じます。

私の惹かれたポイントは…

私も30年以上前に一度は読み、強い感銘を受けたことだけは覚えています。本作品の重要なメッセージが、「大切なものは、目に見えない (Le plus important est invisible)」であることも知っていました。

しかし、物語の細部はすっかり忘れていました。作者のサン=テグジュペリの名言とされ、しばしば引用される『愛するということは、互いに見つめ合うことではなく、一緒に同じ方向を見つめることだ。Loving is not just looking at each other, it’s looking in the same direction』は、この作品の中からの引用なのだと誤解していました。

今回の再読で、強く惹かれた描写は、前半部分が多かったです。例えば…

おとなたちには、いつだって説明がいる。

P8

「きみのくれた木箱だけど、あれは夜、ヒツジの小屋にできるからいいよね」
「そうさ。きみがいい子なら、昼間ヒツジをつないでおく綱もあげるよ。それから綱を結ぶ杭も」
だがこの申し出は、王子さまの気にさわったようだ。

P19

新しい友だちのことを話しても、おとなは、いちばんたいせつなことはなにも聞かない。「どんな声をしてる?」とか「どんな遊びが好き?」「蝶のコレクションをしてる?」といったことはけっして聞かず、「何歳?」「何人きょうだい?」「体重は何キロ?」「おとうさんの収入は?」などと聞くのだ。そうしてようやく、その子のことがわかった気になる。もしおとなに「バラ色のレンガでできたすごくきれいな家を見たよ。窓辺にはゼラニウムがいっぱい咲いていて、屋根にはハトが何羽もいるんだ……」と話しても、おとなはうまく想像することができない。それにはこう言わなくてはならないのだ。「十万フランの家を見たよ!」するとおとなたちは歓声をあげる。「それはすてきだろうね!」

P23-24

今でも、十分に通用する描写だと感じます。私の関わるおとな(私も含めて)も、総じてキャッチ―なことばと、わかりやすい論旨展開と数字での説明を求めています。目に見えないものや役に立たないと判断されるものは、無視する傾向が強い人々は少なくありません。

六年前の回想録であることが意味すること

この作品は、主人公の僕が、六年前にサハラ砂漠に飛行機のエンジントラブルで不時着した際に遭遇した小さな男の子(王子さま)との体験を回想する物語です。私は、敢えて「6年」とセットしている意味が気になりました。

王子さまが、僕が描いた絵(ボアに飲まれたゾウ)を、正確に理解していることを示すセリフも好きな部分です。

村上春樹作品と、自分の思い出と

この作品の重要な小道具は、ヒツジ、象、井戸、砂漠…… です。私は、村上春樹が描く作品との関連を想像してしまいました。

また後半、僕が王子さまを抱いて、砂漠を歩くシーンの描写では、幼かった頃の自分の息子を抱いていた頃の重みの感触が両腕に甦り、じんわりとこみ上げてくるものがありました。



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