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『フィールド・オブ・ドリームス』を観る

本日は、映画『フィールド・オブ・ドリームス Field of Dreams』(1989)の感想です。これまで何度も観ている大好きな映画です。

概要

W.P.キンセラ(William Patrick Kinsella, 1935/5/25-2016/9/16)の小説『シューレス・ジョー』を原作に、フィル・アルデン・ロビンソン(Phil Alden Robinson 1950/3/1- )が監督と脚本を担当。主人公のレイ・キンセラをケビン・コスナー(Kevin Costner 1955/1/18- )が演じています。

本作は、ありふれた日常生活を舞台にしたファンタジー映画です。控え目な演出ながら、スピリチュアルな出来事が次々と起こります。明らかな幻想の上に、「家族」「日々の生活」「失われた夢」「挫折」「癒し」「修復」「後悔」といった、人間が普遍的に向き合ってきた数々のテーマが巧みに織り重なっているので、リアル感を持ってストーリーに引き込まれていきます。

舞台となるアイオワ州の徹底的な田舎感も印象的で、アメリカを強く感じさせてくれる映画です。それぞれの登場人物の抱えた生涯の後悔を成仏させてゆく過程を描く癒しの映画でもあります。

「野球」というアメリカ的なものが、ストーリーを展開していく太い幹として、一本横たわっています。”If you build it, he will come."という声に導かれて始めたレイの冒険が、わかりあえないまま生き別れてしまった自身の父とのキャッチボールに帰結する、というラストまで本当によく出来ているなあと、今回観直して改めて思いました。

『Field of Dreams(夢の野球場/畑)』というタイトルも見事で、これしかない感じです。1990年の日本公開時、『とうもろこし畑のキャッチボール』という邦題がつく予定だったのが、直前に変更されたそうですが、素晴らしい英断だったと思います。もし、この的外れな邦題のまま公開されていたとしたら、本作がこれほどまでにヒットしなかっただろう、と想像します。

魂の救済の旅

私が、この映画に初めて出会ったのは20代でした。それから何度も観返してきた思い出深い作品ですが、年齢を重ねるごとに、印象に残るポイントが微妙に変わってきています。

登場人物の魅力は不変です。レイを支える妻のアニー、場面を転換させる役割を担う娘のカリンはとても素敵な存在です。そして、それぞれに「後悔」を抱える三人の描き方がとても魅力的です。

● レイの父ジョンの憧れのスター選手で、賭博の疑いをかけられ、野球界を追放となった、”シューレス”・ジョー
● 1960年代に書いた作品が一世を風靡しながら、絶望し、現在は隠遁中の作家、テレンス・マン(J.D.サリンジャーがモデルと言われる)
● メジャーでのたった1試合の出場を最後に引退し、医者へと転身する、アーチボルト・”ムーンライト”・グラハム

レイは、心の声に導かれるように行動します。とうもろこし畑の一部を潰して野球場を作り、ジョーを呼び寄せます。マンに会うためにフォルクスワーゲンバン(1960年代ヒッピー文化の象徴)を運転してボストンへ行き、次いでグラハムに会うためにミネソタ州チザムへと旅します。全て直観に従った行動です。損得勘定や論理的判断ではありません。『理屈より心に従う』が私の感性に合います。

場所を転々としていくロードムービー的な魅力もあります。「旅」は今の私が一番関心のあるテーマです。

特に好きな場面

晩年のグラハムを演じるバート・ランカスター(Burt Lancaster 1913/11/2-1994/10/20)に痺れます。グラハムは、この映画の登場人物の中で私が最も惹かれるキャラクターです。

レイは、マンと訪れたボストンの球場で野球観戦中に、”Go the distance"という声を聴き、スコアボードに映し出された文字情報から、”ムーンライト”グラハムの存在を知り、そのままミネソタ州チザムへと向かいます。

レイがひとり、チザムの夜の街を歩いていると、突然自分が1972年(ニクソンが大統領に当選した年であり、1960年代が終わった年の象徴)にタイムスリップしていることに気付き、散歩中だったグラハムを見つけます。レイが声をかけ、グラハムが振り返って会話をするシーンが非常に好きです。

ケビン・コスナーについて

私は、ケビン・コスナーの出演作品をよく観ています。彼のしゃべる英語とは相性が良く、とても聴き取り易く感じます。彼の映画は、英語学習の教材としてよく使いました。自身に野球経験(高校時代にカリフォルニア州選抜に選ばれるほどの腕前)があるので、この作品でプレーする姿も自然です。

ケビン・コスナーは、役者としては遅咲きです。『アンタッチャブル The Untouchables』(1987)で脚光を浴び、本作の大ヒットで大スターの地位を確立しました。製作・監督・主演を務めた『ダンス・ウィズ・ウルブズ Dances with Wolves』(1990)でアカデミー作品賞を受賞し、キャリアの絶頂を極めました。

1990年代前半まではコンスタントに人気作品に出演したものの、自身も製作にかかわった大作『ウォーターワールド Waterworld』(1995)で興行的な失敗を経験して以降は、人気と勢いに翳りが出始めます。2000年代には自身の私生活でのスキャンダルもあって、最近はやや陰の薄い存在になっています。個人的には、もう一花咲かせて欲しいと思っている役者のひとりです。

無意識の領域で影響を受けている作品

私は、この映画の価値観に深く影響を受けています。この映画の広大なとうもろこし畑の風景の美しさは、心に焼き付いています。私が時々、田舎暮らしをしたい、農業をやってみたい、と感じる一因になっています。

どこまでも平凡で冴えないレイの境遇に自分の身を重ねる部分があります。全霊を傾けて取り組んだ野球での成功の夢に挫折し、それ以降立ち上がれなかったという父のジョンの人生にも共感します。

「ここは天国か?」「アイオアだ」というやり取りが何度かあります。これも好きなシーンです。

野球への悔いを残して人生を終えた三人の魂を救済する手助けをした結果、レイ自身が長年抱えてきた悩みからの救済の時が訪れます。レイと父の二人がキャッチボールをしているFiled of Dreamsを目指して、多くの車の隊列が連なっているラストシーンは鮮やかです。

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