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皮膚病・美肌のご利益がある、豊玉姫命の使い - 「ナマズ」『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第十九回)』

「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。

またの名を「使わしめ」ともいいます。

『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。

動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。


神使「ナマズ」

地震を引き起こす存在として

「大鯰を庶民が退治する鯰絵」作者不明 /Public domain

古くから「ナマズ」は地震を引き起こすと信じられてきました。

江戸時代後期に発生した記録的大地震「安政地震(安政の大地震)」以降、天変地異の恐怖や不安から免れ、また身を守るための護符としてナマズが様々に描かれた木版画「鯰絵」が大流行します。

江戸時代は全ての出版物は幕府が厳しく検閲していましたが、世に出たほとんどの鯰絵はこうした検閲を受けていない不法に出版されたもので、作者が不明なものが大半です。確認されているものだけで有に250点を超えるといわれています。

安政地震直後の瓦版「地震よけの歌」作者不明 /Public domain
「大鯰に剣を打ち下ろす武甕槌大神」作者不明 /Public domain

この鯰絵にしばしば登場するのが「武甕槌大神(タケミカヅチノオオカミ)」です。

『香取神宮小史』によると、香取神社一帯は地震の多い地域であり、これは地中に大きなナマズが棲みついて暴れているためだと考えられていました。そこで、香取神宮のご祭神である経津主神(フツヌシノカミ)と、鹿島神宮のご祭神である武甕槌大神が、それぞれ地中深く石の棒を差し込み、大鯰の頭と尾を貫き通して退治したのです。

この時、尾を貫いたのは経津主神、頭を貫いたのは武甕槌大神です。鹿島神宮の「要石」は、このナマズの頭を貫いた石の棒の先端だといわれています。

香取、鹿島の両社を崇敬していた水戸の徳川光圀公は、この要石がどこまで埋まっているかを確かめようと、七日七晩に渡って地中を掘らせたものの、底には達することができず、そればかりか怪我人が続出したことから作業を中断せざるを得なかったといいます。

ナマズの頭を貫いた「要石」鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)
ナマズの頭を貫いた「要石」鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)
ナマズの尾を貫いた「要石」香取神宮(千葉県香取市)

こうした大鯰退治の言い伝えが一般にも広く知られるようになり、大鯰の頭を石の棒で貫いた武甕槌大神が、地震除けのご神徳をもつ神として鯰絵に登場するようになります。

この「鯰絵」は、のちに「疱瘡」などの伝染病を防ぐために描かれた浮世絵の一種である「疱瘡絵」にも影響を与えます(「疱瘡絵」については以前の記事『ウイルスと神々(前編)〜「疱瘡神」とは? 〜 江戸時代の人々はウイルスにいかに向き合ったのか』をご参照ください)。


水神として

大森宮 / 鯰神社(福岡県福津市)

それでは江戸時代以前のナマズは、どのような存在だったのでしょう。

阿蘇神社のご祭神である「健磐龍命(タケイワタツノミコト)」は、阿蘇が外輪山に囲まれた巨大な湖だった頃、開田のために山(現在の立野)を蹴破って、湖の水を外に出そうとしました。すると湖の主であったナマズが抗って、自らの体で水を堰き止めたのです。

健磐龍命は、湖の外へ出てくれるようにナマズを説得しました。それに応じたナマズは、湖から流れ出た水に乗って流され、それがのちの黒川、白川になります。そして最終的に流れ着いたのは現在の上益城郡嘉島町鯰。この地の地名の由来となっています。

国造神社(熊本県阿蘇市)

熊本県阿蘇市に鎮座する「国造神社(北宮)」の境内社である「鯰宮」には、このナマズの御霊が祀られています。

阿蘇といえば名水百選にも選ばれる豊かな水源地。阿蘇のカルデラに抱かれた伏流水は、とても清らかです。古来の火山信仰は、のちに水神信仰へと姿を変え、農業守護のための雨乞いを司る龍神に結びついていきます。

ナマズは、こうした水神や龍神といった神の霊威の象徴でもあるのです。

阿蘇・白川水源



美肌のご利益

豊玉姫神社のなまず様(佐賀県嬉野市)STA3816 /CC BY-SA

日本3大美肌の湯の一つとして知られる、佐賀県嬉野市の嬉野温泉。その温泉街の一角に鎮座する「豊玉姫神社」のご祭神は、水の神様である「豊玉姫命(トヨタマヒメノミコト)」です。

豊玉姫は海神の娘であり、竜宮城の乙姫としても知られます。この地の伝承によると、あるとき豊玉姫が傷ついて苦しんでいるナマズを見つけ、川辺に湧いている温泉をかけてやったところ、ナマズの傷は癒えて白く色が変わり、豊玉姫の使いになると約束したそうです。

以来、このナマズは嬉野川を支配し、国難があるときは水から顔を出して民に神託を授けたという言い伝えがあります(六尺にも及ぶ大ナマズ だったとか!)。

古来より、皮膚病にご利益があるといわれるナマズ。現在では「尋常性白斑(通称:白ナマズ)」といわれる皮膚の一部が白く抜けていく病気がありますが、この治療の祈願との関係性もあるのではないでしょうか。

境内の一角には白く、美しい姿の「なまず様」が安置されています。

この「なまず様」は、「美肌」にご利益があるのです。傍らには祈願の方法が書かれた立て看板が設置されています。それによると、その祈願方法は以下のようなもの。

まず、「なまず様」の前に立って、心を穏やかに整え、二礼二拍手一礼。

「素肌健康」「しわ退散」「皮膚病退散」などの願いを込めて、願い水(聖水)を柄杓に汲み、「なまず様」にかけます。

最後に「なまず様」に一礼をして終わりです。

嬉野ではナマズを粗末に扱ったり、危害を加えると祟りが起こるといわれており、食用にもしないとか。

皆さんも、美肌祈願に訪れてみてはいかがでしょうか。


ナマズに所縁ある神社

鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)
香取神宮(千葉県香取市)
大森宮・鯰社(福岡県福津市)
与止日女神社(佐賀県佐賀市)
豊玉姫神社(佐賀県嬉野市)
阿蘇神社(熊本県阿蘇市)
乙姫神社(熊本県菊池市)
賀茂神社(福岡県福岡市)

参考文献

『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『東京周辺 神社仏閣どうぶつ案内 神使・眷属・ゆかりのいきものを巡る』川野明正(著)メイツ出版
『鯰絵コレクション』国際日本文化研究センター(参照

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