天使の羽を失くしてからの微かな記憶

ひとは此の世に生まれ

いつから天使の羽を失ってしまうのだろうか

微かな痕跡を残して七色に

透き通って輝く天使の羽はいつしか

消えてしまう


雲の螺旋階段を登っていって神様らしき
お爺さんに逢った事があります
あなたは神様ですか?
と僕は訊きました

「わたしは神様じゃないよ 神様はもっと上にいなさる」

と言って雲の上の青い空を
よぼよぼの指で指差しました
そう言われて僕はそれ以上
雲の階段を登らないことにしました

神様じゃないならあなたは誰ですか?
と僕は訊きました

「私は『見届けるもの』だよ」

とそのお爺さんは言いました

「天使の羽を残したままのもの
 天使の羽を失くしたもの」
「それらのいろいろなことを見てきた」

そうですか……
僕はそれ以上そこにいるのが
居た堪れなくなってきて
短いお別れの言葉を交わしてから一人で
雲の螺旋階段を降りて行きました

真っ白な部屋でした
とにかくたくさんの人達が泣いていました
天使の羽を失くした人達が泣いていました

あたたかい涙が次から次へとあふれてきて
いつしか僕も一緒に泣いていました


カット!

僕は夢から醒めて昔の事を思い出していた

下北沢ZOOでいつもの仲間と
みんなで踊ったり踊らなかったり
酒呑んでバカなこと喋り合って
またフロアで踊ってDJブースの
馴染みのDJと新譜の話をしては
またフラフラ踊ったり

ある時、頭が妙に醒えて壁にもたれて
ぼけ〜っと皆んなを眺めてた

暗闇の中、ミラーボールだけが
妙にキラキラ煌めいて

DJブースから謎めいた
微かな光が溢れ出して

それから 

皆んなの背中に七色に淡く光る
透明の光の翼が生き物のように
パタパタ動いているのが

確かに見えた

次の曲のギターの音が鳴り出した

Trash Can Sinatrasの
"Obscurity Knocks"だった

フロアが騒然となったその瞬間は
午前2時30分くらいだったろうか

DJブースに七色の光を纏った羽の
子たちが殺到した

なにもかもがカラフルに煌めいて
紅潮した笑顔と相まって
異様な熱気が放射され反射された

僕も初めて聴くメロディーに踊って
光の渦の中に居て
皆と笑ってた

きっとあの時皆んなと同様に
僕の背中にも羽が生えていたのだろう

幼い頃にいつしかふっと消えて
しまったはずのあの羽が

賑やかな場所でかかり続ける音楽の中で
キラキラと七色の透明に輝いた羽が
見えたのは多分一瞬神様が
私たちに見せてくれた
魔法の時間だったに違いない


zooも失くなりその後継クラブの
slitsも無くなった

もうあの神様の一瞬を
目の当たりにする事も無くなった

でも僕は信じてる

また何時か何処かで
失くしたはずの羽がキラキラと
七色の透明な光を放つ瞬間が来るって

紅潮した笑顔、高揚したハート
賑やかな場所でかかり続ける音楽
あの魔法の瞬間がまた…

その時まで愛すべき仲間たちと一緒に
この世界を生き抜かなきゃね

生き抜こうよ



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