🐇#3 着ただけではなれない【大和なでしこ修行覚書】

2023年6月7日 20:04

【前回までのあらすじ】
「大和なでしこになる！」という目標をかかげた私は、何故かまったく興味のない日本舞踊の先生に弟子入り。
お稽古初日早くも弟子入りを後悔しかけるが、初めて本格的に着付けてもらった浴衣の着心地に感動し「やっぱり弟子入りして良かったかも！」と思い直したのでした。

なんで大和なでしこに日本舞踊が必要？

「自他ともに認める大和なでしこになりたい！」と思った私は、「大和なでしこになるためには、着付けと茶道と日本舞踊を学べば鬼に金棒」と聞き、よく考えもせず、日本舞踊のお稽古を始めることにしました。

突然ですが皆様、日本舞踊ってどんなものか、イメージ出来ますか？

茶道は「お茶をシャカシャカするやつでしょ」、生け花は「とげとげした剣山にお花をさすやつでしょ」と、お茶やお花だったら、すぐにイメージがわくと思うのですが、日本舞踊と聞いても、なかなかイメージがわかない人が多いかと思います。

一番イメージしやすい日本舞踊は、舞妓さんがお座敷でお扇子をもって踊るアレとか、歌舞伎役者さんがモフモフを被って頭をグルグルまわすアレとかですかね。

日本舞踊は、もともとは歌舞伎から生まれたそうです。
歌舞伎にはお芝居の他に、歌舞伎役者さんが踊ることがメインの演目があります。
そこで踊るのが日本舞踊です。

歌舞伎は役者さんが全員男性。女役も成人男性が演じます。
女役は女性らしく見えないといけません。
いくらカツラと化粧をしたところで、男性と同じような動きをしては違和感丸出しで、お客さんは芝居に集中出来ません。

そこで、歌舞伎では着物を着た日本女性が最も美しく見えるしぐさや角度が研究されました。
だから、成人男性が女役を演じても、色っぽく艶っぽく、女性よりも女性らしく美しいのです。

「男性でも女性らしく見える美しいしぐさ」ということは、つまり、女性がそのしぐさを身につければ、最高に美しく見えるってことです。

だから、私が弟子入りしたお師匠さまは、大和なでしこになるには日本舞踊が必要とおっしゃったのです。（なるほど！と納得したのは、弟子入りしてから数年後でしたが）

本格的な着付け＝自分の感覚＋技術

お茶やお花は洋服でもお稽古出来るそうですが、日本舞踊（踊り）のお稽古は浴衣でやります。
踊りには衿や袖を使う動きがあるので、着物を着ていることが前提。着物が着れないとお稽古が出来ません。

私が弟子入りした先生は日本舞踊家ですが、伝統文化を正しく伝える活動も意欲的に取り組んでいらっしゃったので、現代風にアレンジされた着付けよりも、昔からの伝統的な着付けを大切にされていました。
そのため、私が教わった着付けは、最低限の道具だけを使った本格的でシンプルな着付けです。
踊っているうちに着崩れてはいけないので、よっぽどのことがない限りはグシャグシャになりません。

そういうわけで、私は着付け師さんのように、着物の生地の名前や種類、帯のかわいいアレンジ結びを知りません。
着物の専門的なことは、さっぱり知識不足なのです。
おめでたいハレの日も、そうでない普通の日でも着物を着るには困らない最低限の知識や礼儀は教えていただきましたが、なんとか織りとか、なんとか染めとかは、全然分かりません。
そういう意味では、知識豊富な着付け師さんには敵いません。

ですが、着物を着てどうやって動けば美しく見えるのか、着崩れたときはどうすればいいのかといった動きのことでしたら、少しはお役に立てるかと。
だって、踊りは着物で飛んだり跳ねたり、お扇子放り投げてキャッチしたりしますからね！（日本舞踊は意外とアクロバットなこともするのです）

あとから知ったのですが、私がお稽古で教わった着付けと、着付け教室さんで教えてもらえる現代風の着付けは全然違いました。

その違いはこちら。

【一般的に着付け教室で教わる現代風の着付け】
　・ポリエステル製やナイロン製、金具つきの道具
　・タオルや綿をたくさん使って体を平らにする

【私が教わった古風な着付け】
　・綿や絹製の道具
　・タオルは薄手１枚をお腹に巻くだけ（汗取り用）

道具が圧倒的に少ない！！

以前、着付け教室に通っていたけれど忘れてしまった方が、先生に着付けを教えていただくため、お稽古場にいらっしゃいました。
その方は持参した大きな着付け専用バッグ（？）から、着付け教室で購入したという着付け道具を、あれもこれもと取り出して並べました。１５個ぐらいあったかな。
私が普段使っている着付け道具の倍以上の数が並んだので、私は目をぱちくり。
たくさん並んだそれらを、先生はちらりとご覧になってから、

先生「これはいらない。これもいらないわね。あと、それから、これも」

いるものといらないものをポイポイと素早く分けて、残った道具は半分あるかないか。
その方は「そんな……どれも高かったのに……」と肩を落とされました。

先生「そうね。高かったでしょうね。でも、いらないの」

にっこり微笑まれる先生を見て、その方はとうとう、うなだれてしまいました。
総額おいくらだったんでしょうか。こわくて聞けませんでした。

昔ながらの本格的な着付けは、とてもシンプルです。
現代風の便利な道具は使わず、紐と帯だけで、自分の体にあわせて着付けていきます。

シンプルってことはですよ。
道具ではごまかしのきかない、自分の感覚と技術が必要ってことです。

プラスチック製やゴム製だったら、よっぽどのことがない限り、緩んだりしないので着物が固定出来ますが、紐の場合はしっかり結ばないと緩んでしまいます。
だから、大勢の生徒さんを教える着付け教室さんでは、みんなが出来るように、紐ではなくベルト等の便利な道具の方が理にかなっているのかもしれません。

さて、そんな自分の感覚と技術が必要な本格的着付けを、私はわずか一ヶ月で習得……出来るはずもなく、早くも問題発生！！

紐が結べないのです！！

当時の私は超不器用でリボン結びすら満足に結べませんでした。（縦結びになったり、ユルユルだったり）
どこをどう通して、どれくらいの強さをかけて引っ張れば締まるのかが、まるで分かりません。
先生がキュッと結ぶと、紐は私の体にぴったりとくっついて浴衣を放さないのに、それが私の手にかかると、ぎゅっと結んだつもりでも紐は緩んでしまい、体から離れてしまいます。

（なんで、先生みたいに結べないのー！？）

緩まないように全力で締めると苦しい。でも、力をかけないと緩んでしまう。
「どうすりゃいいんじゃい！」と紐を投げ捨ててしまいたくなりますが、ご安心ください。練習すれば、紐が締まった瞬間が感覚でわかります。
力任せにギューッと締めるのではなく、キュッと一瞬だけに力を込める感じです。
そうすれば、力いっぱい締めなくても、着崩れしない苦しくない締め方が出来ます。
この感覚を習得するまで、随分苦労しました。

今、私は生徒さんに着付けを教えていますが、皆さんすんなりと加減がわかって、着崩れないようにしっかりと結べるので、当時の私は相当不器用だったんだと思います。

物覚えの悪い弟子を根気強く教えていただいた先生には、感謝しかありません。
今だから言えますが、弟子入り断られなくて本当によかったー！

続きます。

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