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君がはじめて喋った日。

その日は、空回りな一日だった。

夫が仕事だった日曜日。いいお天気だったので、車好きの息子ために、前から気になっていた交通公園という場所に行ってみることにした。

行ったことのない場所だけれど、思ったよりも近そうなので、息子に「ぶっぷー(車)の公園に行こう!」と言って、張り切って車を走らせた。

しかし道の途中、やけに渋滞していると思ったら、なんとマラソンイベントのための交通規制が敷かれていた。戻ってもよかったのに、負けん気を発揮して、迂回して公園まで行くことに。多分、普段の倍の時間がかかった。

そしてやっと公園に着いたと思ったら、まさかの駐車場が満車。それでもなんとか停められそうな場所を見つけて駐車した途端、今度はおじさんから「あんた、横入りしてるよ!」と怒られた。どうやら別に駐車を待つ車の列があったようだ。謝って、意気揚々と車から降りた息子を宥めながら再び、公園を出た。

待っている車の列は長く、すでにかなり車に乗っていた息子は、暑さもあり体が熱っているようだったので、諦めて近くのミスドへ避難した。適当に選んだドーナツを息子と食べながら、出かける前に張り切っていた自分を思い出して、何やっているんだろうと無性に情けなくなった。

交通規制を飛び越えてきてしまったので、規制が解除されるまではこの近辺で時間を潰した方がいいと思い、この近くにある子ども向けの遊び場を検索して、行ってみることにした。

幸い息子はその遊び場が気に入ったようで、楽しそうに遊んでくれた。そんな息子の姿を眺めつつ、またしても今日の出来事を振り返っては一人で落ち込んだ。

遊びにひと段落着いたのか、息子が絵本を持ってきたので、一緒に読むことにした。息子を膝の上に乗せて、物語を読み聞かせる。途中で猫が登場したので、「にゃんにゃんだね。」と言って指差してみた。

すると、「にゃん、にゃん」と辿々しいけれど、でもはっきりとその言葉が息子から聞こえてきた。「え!?もう一回言ってみて?にゃんにゃんだよ。」そう聞くと、「にゃん、にゃん」とまた息子が言っている声が聞こえる。

「すごい!!言えたじゃん!!」私は嬉しくなって思わず、息子の頭を撫で回した。息子は言えたのが嬉しいのか、私に褒められたのが嬉しいのか、ニコニコしながらこちらを見つめている。

そう、これは初めて息子が発した意味のある言葉だった。

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2歳を目前にしても、ずっと言葉が出てこなかった息子。一時期は悩んでいたこともあったけれど、息子のペースだからのんびり構えようと気持ちを切り替えた。それでも私はきっと心のどこかで、ずっとその時を待ち望んでいたんだと思う。

あぁ、やっと、やっと自分が言いたい言葉を、自分で声にすることができたんだね。今までは頭で分かっていても声にできなかったその思いを、息子はついに音にすることができるようになったのだ。それはきっとすごく息子にとって嬉しいことなんじゃないだろうか。そう思うと、なんだか泣けてきてしまった。

息子に喜んでもらいたくて張り切って出かけても何もうまくいかなくて、そんな自分に落ち込んでいた私。息子はそんな私のために、こんな素敵なプレゼントを用意してくれた。

うまくいかない一日だったと思っていたけれど、全然そんなことはなかったんだ。だって、こんな素敵な場面に出会えたんだもの。

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家に帰ってくると、夫にもその話をして、他にも息子が言えそうな言葉を2人で話しかけてみた。すると意外にも「ウァン、ウァン(ワンワン)」とか、「ぶぶぅ(ぶっぷー)」とかを口にできることが分かった。なんなら「マァマ(ママ)」とも言っていた。(我が家では「お父さん」「お母さん」呼びなので言えないと思い込んでいた。)

そっか、君の中ではもうたくさんの言葉たちが生まれていたんだね。それがついに外の世界に音として発せられる時が来たんだ。(というか、今まで言葉にしたいという気持ちがそんなになかったのかな笑?のんびり屋さんの息子らしいな。)

まだまだ辿々しくて、ウィスパーで、はっきりとそれだと分かるような言葉遣いではないけれど。それでも、口から色んな言葉が出てくる息子の姿は、本当に可愛らしくて、嬉しくて、何度でも言葉を言って欲しくなるぐらい、幸せな光景だった。

これから少しずつ、また新たな言葉が息子の口から生まれていくのだろう。そう思うと、すごくワクワクしてくる。

君はこれからどんな言葉を私たちに伝えてくれるのかな。君が贈ってくれる言葉たちが聞けるのを、お母さんは楽しみに待っています。


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