桜
甘い風が吹き荒らす
ももいろの銀世界は
ひとつ雲の上の理想郷(ユートピア)は
目をそらすと まだひとすじ痛いわたしに
ざわめく酸素を強いて
たよりない木肌とステンレスのへこみ
かたくつめたいあの頃の記おくを
鼻のおくで腐敗した絵具の色を
決してぬりかえてくれない
たけだけしく呻る心臓に 鱗のようにへばりついて
かえらせてくれない
だからこの
いま、枝をはなれ宙を舞う
このひとひらだけを追っていれば
あとは大丈夫
決してそらさないで
あなたの視線がそっと土に触れたとき
とおくの種は散り散りになって
記おくを囲った景色は今宵
あとかたもなくなる
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