narumi

詩などをかいています。

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最近の記事

詩「亀」

春風が通りぬける赤い太鼓橋のもとに 柔らかく平らかに盛り上がる土のうえに 雨上がりにきらめく水草のそばに 無数の黒い甲羅が重なっている その生きた彫刻は 天の奥行きのなかに 光を かたい鼻先をあつめて まっすぐに顔を向けている だが夜になると そそくさと踵を返し いくつかのすがた ぬるりと晦ます

    • 詩「暗闇」

      電気消して 写真立てを伏せる時 キミの声のような 体温のようなものが におい立つのが

      • 甘い風が吹き荒らす ももいろの銀世界は ひとつ雲の上の理想郷(ユートピア)は 目をそらすと まだひとすじ痛いわたしに ざわめく酸素を強いて たよりない木肌とステンレスのへこみ かたくつめたいあの頃の記おくを 鼻のおくで腐敗した絵具の色を 決してぬりかえてくれない たけだけしく呻る心臓に 鱗のようにへばりついて かえらせてくれない だからこの いま、枝をはなれ宙を舞う このひとひらだけを追っていれば あとは大丈夫 決してそらさないで あなたの視線

        • 新書『女のからだ フェミニズム以後』を読んで

          自分の身体は自分のもの。これはしごく当たり前のことのように思えるが、実はほとんどの人が達成できていない、特別なことなのだと思った。 女の体は男や国家に搾取されていると言えると思う。 一方「男は仕事」というように残業を強いられてきたという意味では、男の体も国家や企業のものだと言えるのではないかと思った。女の体は男のもの、男の体は企業のもの。 では、自ら企業を操っている社長ポジションの男の体は完全に自分自身のものかと言えばそうでもなく、究極を言えば、経済を大きく動かすという意味で

        詩「亀」

          ピンクリボンと千円カット

          三歳のときに壊したアナログ時計と一緒に箱に詰めた。 何気ないことを一番大切に思っていたあの頃。 いつもいつも空気が淀んでいてわたしらしかった世界。 くまさんの匂い。 ありがとうこれから、アルゼンチンのカフェに行くのだから、 何も用意しなくて良いよというけれど、 悲しい、悲しい風が吹いていたの。 こっちが困るの、三渓園は緑すぎるの。 君も少し、青すぎるの。 それってよく考えたら宗教なの。 奈良ナンバーが続く。 かわいいの素がそこかしこに散らばっていたら意味

          ピンクリボンと千円カット

          社会の歪み

          川上未映子『三月の毛糸』 東日本大震災後の、日本列島をおそう漠然とした不安がテーマになっている。妊娠しお腹が大きい妻と暮らす主人公は、妻が妊娠したくらいの頃から、途端にわけのわからない眠気に襲われ始める。 東日本大震災後あたりに訪れた、緩やかで長期的な不景気が個人にもたらす 不安感が、非常に巧みに、感覚的に描かれている。 赤ちゃんを包む女性の大きなお腹は、これまでは希望の象徴として描かれる ことが多かった。しかしこの作品で主人公は、中にあるのは赤ちゃんではな くた

          社会の歪み

          「誕生同意法」

           妻が妊娠した。授かり婚と言えば聞こえが良いが、いわゆる「デキ婚」である。意図した出来事ではなかったが、妻のご両親の喜びようを見たら、もう後には引けない。病院から破水したと電話があり、仕事を中断し急いで病院へ駆けつけた。  病院に着くと、何やら細いメガホンのようなものを渡された。医者は言った。 「『誕生同意法』のもと旦那様には、赤ちゃんが股から顔を出す直前に、産まれたいか・産まれたくないかをこのメガホンで聞き出す役目をお願いしたい。」  『誕生同意法』。自殺率が高いことで

          「誕生同意法」