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2018年June Taylor Companyへ行った話

2018年9月に訪問した、バークレーにあるJune Taylor Companyの訪問記です。
通訳を介しての質問と回答をメモしたものを、記憶が鮮明なうちに脳内補完しつつ、帰りの機内で原稿に起こしたもので、marilouのブログに掲載したものを転載しました。
会話仕立てに仕上げてありますが、そのままではないことをご了承ください。

2020年7月にJune Taylorがお店を閉めると発表がありました。英文のインタビューがこちらにありますのでよかったらご覧ください。
私がそのことを知ったのは、日本のインポーターに最後のジャムが輸入されてからでした。
訪問記を読んでいただければわかりますが、彼女の足跡はほぼベイエリアの良心的な食の歴史といっても過言ではないと思います。
彼女のジャムが食べられなくなるのはとても寂しいですが、30年間お疲れ様でしたという気持ちでいっぱいです。

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Juneのアトリエのあるバークレーは全米で最もリベラルな街と言われている

「15:00までしかアトリエにいないそうなので、午後の早めの時間に行ったほうがいいです」とLandscape Productsの清水さんにアポイントメントを取っていただいていたのだが、飛行機の遅れと入国審査の行列で予定から1時間半遅れた14:30ごろにアトリエに到着した。

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手書きのラベルが非常に多かったのが印象的

スタッフにアポイントの件を告げると「今サンフランシスコの方にでていて、15:00ぐらいには戻るわよ」と言われ「???」となりつつショップに並ぶジャムたちを眺めていた。

ジャム、マーマレード、バター(ジャムよりテクスチャーがスムースなもの)、シロップ、キャンディとたくさんのプロダクトが並ぶ。日本では見かけないものも沢山。

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ディスプレイのセンスも素晴らしい…

程なくJuneが戻ってきて開口一番「あら、早かったのね。15:30にくるって聞いていたわよ」。

当初はあわてたものの、結果的にとてもスムーズに、なおかつゆっくりとお話を聞くことができた。

「今はジャムだけではなくて色々なプロダクトを作っているわ。ジャム、マーマレード、シロップ、ピールキャンディ、ケチャップ… 一つの食材を無駄にしないようにそうなっていったのよ。

ここ15〜20年でベイエリアの農業事情がどんどん変わってきたわよ。
今ではメキシコからも安いオーガニックの農産物が輸入されるようになってきたわ。
メキシコでも若い人がオーガニックで農業を始めるようになったからね。
でも運送のために熟す前に収穫してしまうし、メキシコのものを買っても、農家にはほとんどお金が入らない。
メキシコのものを買っても、農家にはほとんどお金が入らないから私は使わないようにしているのよ。

一般的には安全性とかローカルとかよりは、安いとか手軽とかといった方に意識が向いているわ。」

「私たちはかなり良い素材を使うグループにいるわね。
でも私はこの仕事をお金にコントロールされたくないと考えているの。
サンフランシスコでも農家には、決してたくさん農家にお金が入っているわけでない。だったらより身近なサンフランシスコで志高く営農している農家のものをたくさん使いたいと考えているわ。
梨とルバーブがオレゴン産な以外は、全てサンフランシスコのものを使っているのよ。
一番注意していることは、その果物を余すことなく使うことね。そして自分の畑に生えているものや野生のハーブをつかうこと。私は25年以上、キッチンガーデンでハーブを育てているよ。」

「企業秘密だらけだから絶対に撮影はしないでね。昔、勝手にネットでシェアされてすごく嫌な気分になったわ!」

と念押しをされて工房へ入れていただいた。

とても広い倉庫群の一角にある、倉庫の1ブロックを使っていて、製造から出荷まで全てここで済ますことができる場所だった。

大きな4つ口のガスコンロとオーブンがついたガス代が2台、小さめなガスコンロが2台。大きな作業台が2列。大きな鍋があちこちに!そして殺風景な中に、ジューンのセンスの良さが伺えるインテリアが飾ってあった。

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ジャム以外の瓶詰めも

マウンテンセージと松のエキスのシロップを始め、何種類も何種類もシロップとジャムとピールキャンディを味見させていただく。特に松のエキスのシロップはとてもワイルドで力強いシロップで驚いた。

Juneのジャムはきちんと素材の味が前に出ていて砂糖の使い方がとても上手だと感じている、との問いに、

「今は本当にたくさんジャムを作っている人がいるけど、誰よりも砂糖の量は少ないと思うわ。アメリカ人もイギリス人も砂糖を使いすぎね。砂糖を使いすぎると、せっかくの果物の味が砂糖の甘みでマスクされてしまうのよ!」

そんな中で、甘みを抑えたジャムを販売したらお客さんの反応はどうだった?との問いには、

「想像以上に歓迎されたわよ!」

と意外な答えが返ってきた。果物の味がしっかりとするジャムを意外と多くの人が求めていたようだ。

「一番大切なことは素材がどう調理してほしいか、ということに意識を傾けることね。調理をする主体は私ではないのよ。

その時々で素材の熟し方、甘さ、大きさといった状態も全く違うので、いつもいつもがチャレンジなの。毎回、仕込みが終わった後に「次こそはこうするわ!」といういうアイデアがわくのよね。

だから自分のセンサーを常に研ぎ澄ませていないと、素材の声を聞けないし、アイデアも湧かないわ。「次郎は寿司の夢を見る」という映画を見たことある?あそこに出ていたすきやばし次郎さんが同じことを言っていたわね。

私は食に対してマニアックだからレシピや食文化の本を読むのがとても大好き。色々な時代の本を700冊ぐらい持っているわ。本を読んでも今とは時代が考えも違ったりもするので、その時々の自分なりの考えを盛り込んでいわよ。

(ゆずピールキャンディを味見しながら)ゆずは完全に熟れる前の、緑色の状態で使うのがとても大好き。熟して味が頂点に行く寸前の状態がベストね。

素材は収穫されてから24時間以内に使うようにしているわよ。冷蔵庫に入れないわ。

だいたいの工程として、農家が果物を収穫して午前中にアトリエに持ってきてくれて、午後から加工に入るようにしているわ。

どんなものでも甘み、酸味、苦味などの味のバランスがとても大事で、そこを決めるのが私の大切な仕事。最後の数分で決まるわね。」

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この日はトマトケチャップを仕込みしていて、仕上がる前の数分間、話を中断してしきりに味見しながら、私たちのインタビューに応じてくれた。

工房はJuneとスタッフが2人、合計3人で調理の作業しているそうだ。

Juneの夫がウェブサイトの管理、息子さんがセールス(土曜日のフェリービルディングファーマーズマーケットでは一緒に店頭に立つ)、Juneが製造、と家族で役割分担をしているそうだ。

「フェリービルディングのファーマーズマーケットはとても観光客が増えてきたのよ。ベイエリアで一番大きなファーマーズマーケットね。でも観光客は野菜を買わないから、農家はそれだけでは生計が成り立たない。朝早くにサンフランシスコの一流シェフたちがたくさんやってきて、大量に野菜や果物を買うから成り立っているのよね。

チャンネルをたくさん用意することが、生業として成り立たせるには大切ね。ファーマーズマーケット、卸、オンライン、加工品…

ファーマーズマーケットはマーケティングの場所。味見をしてもらったり、直接話しをしたり、お客さんだけじゃなくて出店者同士もコミュニケートするとても大切な場所なのよ。

そして私たちはそんなファーマーズマーケットのコミュニティが大好きなので毎週欠かさず参加しているわ。」

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早朝のフェリービルディングのファーマーズマーケットでよく見られるシェフカート。レストランの買い付け用に会場内に無数に設置されている。
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ファーマーズマーケットでジューンに紹介してもらったベテラン有機リンゴ農家。

センサーを研ぎ澄ますためにはどうしたらいい?のという問いに

「木のものや野菜やハーブは雨が降った後に取るようにしているわ。果物は日光がたくさん当たっているときに取るようにしているわ。そしてその場所には必ず行って、その場所の空気を感じるようにしているの。素材が生えているその空気、雰囲気をしっかり感じることが大切なのよ。

うーん、こういう感覚的なことはちゃんとうまく説明できないわね。

あとは旬の食材を逃さないこと。その時の「この子たちはどうして欲しいのか?」というタイミングを逃さないことね。

そしてその食材を作っている農家のことを知っていて、どのような人が、どのように作っているかということを知っていることが大切。

そしてその人に対してお金が流れないのならやらないようにしているわ。

シロップを作り始めた頃は「シロップ?パンケーキにかけるの???」ってイヤという程いわれたわ。その頃は皆んなそれしか知らなかったのよね。でも今はやっとソーダに入れるとか、色々な楽しみ方を知っている人が増えたわよ。

私は若い頃、食べる事に苦労したから、とにかく食材を無駄にしないように余さず使うように工夫をしたわ。他の人がお肉をステーキで食べていたら、私はもっと安い部位を買って、それを美味しく食べる工夫をしたり、野菜だったら皮も根っこも全部使うようにしたり。

お肉が部位によって色々な楽しみ方ができるように、果物も実だけではなくて葉や幹や根までも使えるものなら使ったほうがいいわよね。

実だけ、という部分を見るだけでなくて全体を見ることがとても大切だと思うわ。」

Juneのジャムを食べたときに感じたのは、とにかく果実味の強さ。ベイエリアの果物って美味しいんだ!と驚いた。だけどベイエリアのフルーツが素晴らしいというだけではなく、Juneがその中でも厳選していて、そしてきちんと美味しい時期を見逃さず、適切に調理をしているからこそのおいしさなのだということを痛感した。

時間にしてたっぷりと2時間。

Juneはとにかく自分の仕事のことを、プロダクトのことを、果物たちのことを、話したくて話したくて、楽しくて楽しくて仕方がないという様子だった。

自分の仕事を愛していて、それにまつわることを愛していて、とにかく熱意とパッションに溢れていた。

20年以上続けているこの仕事の規模の絶妙さが、僕らにとってもとても理想的に感じた。無理に大きくしすぎずにきちんと自分の手の届く範囲でおさめて、クオリティを落とさない。

でも出来るだけ沢山の果物を使って、きちんと農家さんにお金を回せるようにする。

きちんと意識してできたそのバランスがとても絶妙だなと感じた。

僕らにまだまだ足りないのは熱意とビジョンだった。

改めて熱意をもって取り組めるビジネスビジョンを作る大切さを痛感した。

今回のサンフランシスコ留学はSquare Japanによる「Let’s __」プログラムでご支援いただきました。ありがとうございます。
「Let’s __」についてはこちらのサイトをご覧ください。

通訳:Hiroka Tucker
写真:Takaya Suzuki

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