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ミニマル・シンプルの次はスマホ離脱

私が都内の大学生になった頃、スマートフォンはこの世にまだ存在しておらず、
Eメールを使うには生暖かい微妙な風と共にブーンと音が鳴る大きなパソコンしか選択肢がなかった時代。
朝の通勤通学ラッシュの電車の中には新聞や本を読む人が詰め込まれていた。
東北の田舎から出てきた進学者本人である私とその親は、
「東京の人は本をたくさん読むんだね」
と言っていた。

一家に自家用車が一台以上あるのも普通であった公共交通機関が極めて不便な地域の田舎では、読書は移動中にするものではなく、
家で腰を落ち着けてするものと言うのが必然的な条件だったのだろう。
他人が読書をする姿を目にする機会といえば
図書館に行った時か、膨大な待ち時間が溢れている病院の待合室くらいなものだった。

現代では考えられない光景だ。
電車の中ではほぼ全ての人が自分の手元のスマートフォンを眺めている。

無論、電子書籍を読む人も増えているだろうから
昔々と変わらず書籍や新聞を読んでいる人も少なくは無いかもしれない。

しかしあの手のひらサイズの液晶画面を老若男女世代を問わずじっと眺めている電車内の光景は、ふとした瞬間に不気味なものに見えてくる時がある。

一家に一台テレビがあるのが当たり前の時代がやってきて、
その次にテレビを捨てる人たちが密かに発生しはじめ、
今や家にテレビがないと公言することは恥ずかしいことでもなんでもなく
普通にあり得る状況になってきた。

一家に一台パソコンがあるのが当たり前の時代がやってきて、
その次に一人一台の携帯電話が普通の時代がやってきて、
そしてスマートフォンで支払いから動画視聴から連絡までのほぼ全てが賄える時代がやってきた。

スマートフォンならびにモバイルの連絡手段を持たない人は現代ではおそらく少ないだろう。安全のためという名目で小学生にもスマホが必要とされる時代になり、
困った時にいつでも連絡が可能である安心感も付帯するデジタル端末を
シニア世代でひょいひょいと使いこなしている人も多い。

しかし遠からず、もしかしたらスマートフォンを持ち歩かない人種が
登場するような気もしてきた。
テレビがない家なんてありえない、スマホを持っていないなんてありえない、
パソコンを使ったことがないなんてどういうことか、
というような時代があったように、
出先でスマホが持ち物に入っていない時代が、もしかしたら、来るのではないだろうか。

それに気がついたのは、今年に入ってからスマートフォンの契約を
大手キャリアから格安SIMに切り替えたことがきっかけだった。

私が使い始めた格安SIMの契約は、基本的には使った分だけ支払う形式のもので
つまり使わなければ月々の支払いは最低基本料金内で済んでしまう。
おおよそ1000円ちょっとだ。

せっかく大手キャリアから切り替えたのだから、この月々の支払いが安く済むというメリットを最大限に味わいたかった私は、外出中は極力通信データを使わなくて済むようにし始めた。

とは言っても昨今、自分でネットにアクセスしなくとも
勝手にメールやらアプリの通知やらがじゃんじゃん届いてしまう。
そこで外出中にはSIMに付帯するモバイル通信をオフにしておくことにしてみた。
外出中の私には電話もメールも一切つながらない。
自分から電話をする必要がある場合にのみ、通信をオンにする。
ほぼスマホをオフにしている、もしくは持ち歩いていないも同然のような状況だ。

しかしながら持ち歩いているのには、万が一の緊急連絡時のためと
どうしても道に迷って困った時、どうしてもいますぐに調べないと次の行動に移れない時に、その場で解決策にアクセスするためである。

その結果、初めの頃は調べたいことがふと頭をよぎった時に、
今手元にあるスマホでサクサクと調べられないことに多少の違和感を感じたものの、
それらの調べたい物事など家に帰ってからWi-Fiに繋いで大きな画面でゆっくり調べたらいいなと思い返せるような緊急性の低い調べ物であることに気がつくこともできたし、
道を歩いている自分自身の現在の状況に意識が向くようにもなった。

スマホによっていつでもどこでも別世界にアクセスして意識をそちらに飛ばすことができるのは、本当に魔法のようで便利だったのだけれど、
それと引き換えに、今現在を全く見ることが出来ていなかったと、
出先で不用意にスマホを使わなくなってから初めて気がついたのだ。

今はとても考えられないが10年後、20年後に
スマホや、今のようなネット環境、それらを通じた様々なアクセスによるメリットなどが、全て衰退する時代が来るのかもしれない。

昔々の私たちが、今の状況を想像できなかったように、
とても考えられないような未来が来るのが常なのだ。

おそらく次の時代を作っていくのは
今ある当たり前を、変えていける人。

みんながやっていることを、辞めてみるという
シンプルですぐにできることから始める人が
未来の常識の中心人物なような気がしている。

そして少なくとも、
スマホの重要度を一気に下げることに成功して
私は今なんだが幸せを感じている。

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